122.海の色なのに甘いジュース

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122.海の色なのに甘いジュース

 海の水は僕が追いかけると逃げて、突然襲ってくる。慌てて駆け戻ると、後ろを濡らしてまた帰っていくの。波と呼ぶんだけど、初めての経験でびっくりした。何回か追いかけられて、波が来れる場所は決まってるのだと知る。  濡れない場所に座ったら、突然僕を波が襲った。お尻の下が濡れちゃったし、靴もびしょ濡れ。パパが笑いながら僕を抱っこして、乾かしてくれる。こっそりだよ。魔法は人間にバレないように使うって、アガレスが言ってたから。 「ありがとう、パパ」 「夢中になっていたが、楽しいか」 「うん! 海は初めてで楽しい!」  だんだんと手がベタベタして、舐めると塩の味がする。髪の毛も足も全部そうなるんだ。海の水に触ってないのに不思議だね。  いい匂いがして、くんと鼻を動かす。お魚を焼いた匂いみたい。 「食べに行こう」  手を繋いで砂浜を出る。途中で岩がごつごつした場所を通ったから、パパに抱っこしてもらった。僕がよじ登るのは大変で、無理そう。僕より大きい岩があるんだよ。途中で見つけた小さな川で手を洗い、人がいっぱいいる街へ向かった。  砂浜に近いところにもお店がある。お魚は焼いてるのが多くて、平らな網の上に貝や海老を乗せてる店も並んでた。僕が興味を示した物をいくつか買って、赤い屋根が付いた机に置いた。椅子はいっぱいあるけど、僕はパパの膝の上に座る。  赤いお魚、銀のお魚、それからお皿みたいな貝と青い海老だよ。色がいっぱい! パパが海老を剥いて、中の身を千切った。唇に当てて温度を確かめる。前に僕が火傷しそうになったから、パパは気にしてくれてるの。優しいよね。 「あーん」  ぱくっと齧った海老はちょっと大きくて、美味しいか尋ねるパパに声が出せない。頷いてもぐもぐと必死で口を動かした。塩の味がして美味しい。顎が疲れてきた頃、ようやく全部飲み込んだ。 「大きすぎたか。次は貝だが……このくらいかな」 「あーん」  貝は小さくて柔らかかった。くしゃっと崩れて、あまり噛まなくても食べられる。パンに塗るバターの匂いがしたよ。赤いお魚は中が白くて、銀のお魚は中が黄色だった。どっちも美味しい。 「僕が知ってるお魚の味と違う」 「海の魚だからだろう。いつものは川の魚だ」  生まれた場所が違うの? 海は塩っぱくて、ずっと揺れてる。川は流れてて美味しい水だよね。覚えておいて、後でプルソンに聞いてみよう。 「池にいるのはどっちのお魚?」 「川だ。海水ではないな」  じゃあ、池のお魚はいつもと同じ味がするんだ。食べると味の違いで住んでる場所が分かるかも。お腹がいっぱいになるまで食べて、パパが買ったジュースを飲む。海の色のジュースなのに、甘いのが不思議。上に乗った黄色い果物を齧ると酸っぱかった。顔がくしゃっとなっちゃう。 「そんなに酸っぱいか?」 「あーん」  残った果物の半分をパパの口に入れる。パパの顔もくしゃっとなった。やっぱり酸っぱいよね。パパの手が僕の目の間の皺を伸ばしたから、僕もパパの顔を撫でた。  お日様が沈むまで一緒に遊んで、今日はこの街に泊まるの。そのあと別の街に行くんだよ。明日の街は、どんな場所だろう。
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