123.あの人、崩れちゃった

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123.あの人、崩れちゃった

 大きな街へ遊びに来た。ここは昨日の海の街より大きくて、都と呼ぶの。王様が住むお城もあった。僕の住んでるパパのお城の方が大きいね。  ここの人は忙しそう。馬車に乗って移動する人や、速く歩く人ばかり。パパと僕だけがのんびりしてる気がした。手をしっかり繋いで歩くけど、心配だからとパパが抱っこする。首に手を回して抱き着いた。  今日のパパは髪と同じ黒い服で、白いシャツなの。髪を縛るリボンは僕の目と同じ青だった。僕は長い銀髪を高い場所で結んで三つ編みにしてある。首を動かすと背中で揺れるんだよ。  パパとお揃いのリボンで髪を結んだから、僕とパパが仲良しだって外の人にも伝わるかな。水色のスカートでひらひらしたお洋服で、靴は濃い青だった。パパの首に手を回して落ちないようにしながら、きょろきょろと見回す。すると目が合った人がついてきた。  小さく手を振ってみたけど、返事がない。知り合いじゃないのかも。たまたま同じ方向へ向かってるだけ? 気にするのをやめて、僕はまた通りの人達を眺め始めた。大きな荷物を背負った人、何か食べ物を売ってる人、食べながら歩いてる人……あの人は何してるのかな。  着飾った女の人がいる。お胸が大きいけど、アモンのが大きい。僕みたいにふわふわのスカートで、ピンク色だった。髪の毛がきらきらした天使の金色だけど、怖い顔してる。整って綺麗な顔なのに、ぼんやり影があって怖いの。目を逸らしたら、さっきの男の人とまた目が合った。  さっきまで普通の顔だったのに、今は真っ黒に染まってる。目や口の位置もわからないくらいで、黒い影が顔を隠していた。 「パパ」 「聞こえてる。大丈夫だ、パパが守ってやるから手を離すな」 「うん」  僕の心の声が聞こえるから、パパは後ろの怖い人に気付いてる。よかった。僕がちゃんと説明できたらいいけど、難しいの。どうお話ししたら伝わるか、まだプルソンから学んでるところだから。間違いなく伝わるパパに安心して抱き付く。 「俺の代わりに、そいつを見張れるか? 近づいたら教えてくれ」  こそっとパパから仕事を任される。小さく頷いた。出来るよ! 僕、ちゃんとパパの役に立てる。首に回した手でしっかり襟を掴んで、ついてくる人を見た。いつの間にか顔だけじゃなくて、全身が黒い何かに包まれていた。煙みたいな嫌な感じで、人の形もぐらぐらする。 「あの人、崩れちゃった」  形が崩れちゃった。そう思った瞬間、煙が伸びてきた。ぎゅっとパパの襟を引っ張る。あれは、あの人の手? 「大丈夫、絶対に守ってやる」  パパの手が僕をぽんぽんと叩く。次の瞬間、伸びてきた煙が人の形に戻った。パパの足元に倒れてる。 「何したの?」 「襲って来たから倒した」  びっくりした。この人、パパを叩こうとしたの? どきどきしながらパパの顔を見ると、いつもの綺麗な顔だった。僕の頬にちゅっとキスをして、この場所から離れる。僕があの人を見ないように向きを変えて抱っこし、足早に人の間を抜けた。 「さあ、お買い物して帰ろう。今日はお土産を見つけるぞ」 「お土産? 僕も選ぶ!」  わくわくする。誰に何を買おうかな、お店にどんな品物があるんだろう。選んだ物を喜んでくれるといいな。
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