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19.卵ってどんな食べ物なの?
「よし、可愛くなったぞ」
バエルが嬉しそう。鏡の中の僕は、耳の下で内側へ丸くなった銀髪だけど、首の方へ向けて斜めになってる。後ろは肩に被るくらい長いの。傷になってるところを残してくれた。あと、顔もいろいろ塗られる。傷になってる頬も青くなった痕が消えたんだよ。腕や足の傷にも塗る薬をもらった。
バエルのお膝の上でお礼を言った時、目に映った道具が気になる。マルバスは前も横も丁寧に整えてくれたけど、その刃物2本なの? じっと見つめていると、手の上に置いてくれた。あれ、1本になってる。上に輪が2つ付いていた。
「こうすると開く。ハサミという道具だ」
バエルが丸い輪に指を入れて動かすと、2本と1本と交互に繰り返す。でもばらばらにならないの。驚いて近くで見ようとしたら、慌てたバエルに止められた。
「刃先は鋭くて切れる。ケガをするぞ」
「分かった、ありがとう」
僕を助けてくれてありがとう。あと、ハサミが危ないことも教えてくれてありがとう。重ねてお礼を言った僕にキスをくれた。今日は額で、髪の毛をかき上げて唇が触れる。これ、気持ちいいね。
返したハサミは、マルバスが空中に放り投げたら消えて、魔法なのかなって思った。そういえば、僕の髪を切る前に手に持ってなかったよ。
「よく気付いた」
僕を褒めるバエルに、へにゃりと笑った。笑うと顔が醜いって殴られたけど、バエルは違う。僕が笑ったら綺麗なバエルも笑ってくれるから。僕が醜くても嫌わないバエルが大好きだよ。
「……っ、食事にしようか」
まだ積んだ紙はそのままだけど、アガレスも頷いた。目の前で人が出たり入ったりして、あっという間に準備される。それを見ているだけで楽しかった。急いで動いてるのに、かちゃかちゃと音をさせないし、転んだりもしない。きっとすごい人達なんだよ。
「陛下はもう契約を済ませておいででしたか」
「ええ、完全に繋がっておられます。ここまで相性の良い契約者はいないでしょうね」
「羨ましいことです」
マルバスとアガレスが話をしてる。大人が話をしてる時にじっと見てると、盗み聞きになるんだって。奥様に怒鳴られたからそっち見ない。バエルが僕の耳に両手で蓋をして、額と額をくっ付けた。ふふっと笑った僕に、バエルも優しい目をした。近くで見てもすごく綺麗だ。
「ほら、今日は両手で掴んで食べられる物にしたぞ」
用意されたのは、パンに何か刺さった料理だった。初めてみる。覗き込んだら葉っぱが出てた、あとハムも。ハムはこないだ食べたから分かる。お皿に乗ってる黄色いのは何?
「パンに肉と野菜を挟んだ。両手で持って齧っていいんだ。こっちの黄色いのは卵だが、このまま食べるか? パンに挟んでもいいぞ」
「挟むの、手で?」
バエルは僕が知らなくても怒らない。だから聞いてみる。今日はアガレスやマルバスも一緒にご飯だ。バエルが僕を膝に乗せて、両手を綺麗に拭いてくれた。いい匂いがする。
黄色いのは卵――それって、どんな食べ物だろう。わくわくした。
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