20.皆で食べるとうまいね

1/1
3227人が本棚に入れています
本棚に追加
/209ページ

20.皆で食べるとうまいね

 手を拭いた布は、お花の匂いがした。だから食べ物を掴んでも、平気だと思う。皆も手で食べるのかな。不安になって顔を上げると、アガレスも手で掴んだ。隣でマルバスが黄色い卵を間に挟む。その時、手を使ったの。  僕は安心して頬が緩む。これなら僕の食べ方がおかしくて、バエルが恥ずかしいことないね。バエルが先に食べたから、僕も同じように齧った。まん丸いパンの真ん中を切って、野菜とハムが入ったご飯はうまい。 「うまいね。バエル」 「そうか、よかった。卵も入れるか?」  頷いた僕は卵を掴んで入れてみる。乗せ方が悪いのか、落ちそうになったらバエルが直してくれた。よかった。落ちたらバエルが恥ずかしいから。 「恥ずかしくないぞ、ほら。マルバスが落とした」  大慌てでマルバスが齧ったら反対側から卵が出てきた。お皿に落ちる前に手で押さえたけど、あれは僕には無理。絶対に落ちちゃうもん。 「カリスの方が上手に食べるな。うまいだろ」 「うん」  頷いた僕の正面に座るアガレスが、がくりと肩を落とす。それからバエルに「うまいではなく、美味しいと言ってください。カリスに言葉遣いが移ります」と言った。怒ってるのかと思ったけど、顔は笑ってるから平気みたい。気にせず、残ったパンも齧る。  マルバスは今度は上手に食べてた。ハムの間に卵を乗せたんだけど、ハムを齧ると卵が奥へ滑る。このまま食べていくと、マルバスみたいに反対から出ちゃう。そうだ! 反対から食べたら平気かも。  逆方向から齧ったら、卵がお皿に落ちちゃった。バエルがひょいっと拾って、自分の口に放り込む。え? いいの?  「一緒だと言ったであろう?」  そういって片方だけ目を瞑った。すごくカッコいい。真似してみようと目を瞑ったら、両方閉じた。もう一度やったけど、やっぱり出来ない。これは綺麗な人限定かも知れないから、僕は出来ないのかな。 「大人になればウィンクも出来るぞ」  バエルに言われて、僕が子どもだからだと分かった。バエルみたいに大きくなったら、出来るようになるんだね。ウィンクって名前も覚えておかなきゃ。大きくなったらバエルに教えてもらおう。残ったパンを全部食べて、卵が落ちそうになったら手で押さえた。  最後は全部口に放り込んだの。頬がぱんぱんに膨らんだけど、痛いよりうまいが一杯で嬉しい。何度もよく噛んで、きちんと飲み込んだ。待っていたバエルが渡してくれたコップの中身は、果物の匂いがする。甘い匂いだった。  初めて見るピンクの液体を流し込んだら、甘くて口が溶けそう。こんなうまい飲み物があるなんて、僕知らなかったよ。バエルと出会ってから、いろんなことを見たり聞いたり。 「ア、アガレス様……あれ、本当に陛下ですよね?」 「間違いなく本物の陛下です。先程はよくやりました」 「いきなりの指示はびっくりしましたけど、うまく落ちてくれてよかったです」  ひそひそと話すアガレスとマルバスに首を傾げ、僕は納得した。あの2人、仲がいいんだね。お友達なんだ! 僕とバエルはもっと仲良しなんだから、分からない話してても平気だよ。 「そうだな。カリスは賢いぞ」  ご飯を食べただけなのに、たくさん褒めてくれた。汚れた手を拭いたところで、ノックの音がする。もしかして、アモンがお洋服持ってきてくれた? わくわくした。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!