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しばらくして、家のインターホンが鳴った。こんな時間に誰だろうと思ってドアを開けると、そこにいた人物にあまりに驚いて「え」と声が漏れる。
「ユキさん…なんで、」
彼は白いニットと黒いスキニーを着て、俺の家にやって来た。黒髪の隙間から見える綺麗な瞳と目が合う。
彼はするりと家に入ると、未だに驚いてまともに喋れないでいる俺をよそにドアに鍵をかけた。
そして俺の肩を掴み、玄関の壁に追いやると急に唇を重ねた。
「んっ……!?」
驚きに重なる驚きで頭が真っ白になった。
彼はそんな俺を気にもせずに角度を変えて何度も唇を重ねる。
「ん、っは……ゆ、ユキさん…っ、まっ…」
彼のニットをぎゅっと掴み、薄目で彼の顔を見る。彼の白い頬には閉じられた瞼の睫毛の影が落ちていた。こんな状況でもやっぱり顔が良いと思ってしまう自分が恥ずかしい。
彼は俺の肩を掴んだまま、部屋のほうへと押しやり布団に押し倒した。ワンルームのせいで玄関から布団までが近すぎた。
キスは次第に深くなり、お互いに貪るようなものへ変わっていく。唇を離す度に自分ではないような上擦った掠れた吐息が漏れる。彼の片手は俺の服の中へと伸び、唇を離した彼と目が合った。彼は口の端でふっと微かに笑って、俺の耳元に顔を埋める。
「……いい?」
と、低い声で俺に耳打ちした。頭に響く艶やかな声に背筋がぞくぞくした。覆い被さる彼に腕を回そうとしたその時、視界が暗転した。
目を開けると、自分の家の天井が目に入った。
眩しいと思って横を見ると、窓から朝日がてらてらと差し込んでいる。
頭がうまく働かない。意識と身体の接続が上手くいかず、身体が鉛のように重い。俺は今まで寝てたのか?
ゆっくりと身体を起こして、ぼんやりとした頭で俺以外誰もいない部屋を見渡した。
段々と意識が明瞭になってきて、俺は自分の手で顔を覆って大きな溜息を吐いた。
人生で初めてあんな夢を見た。
恥ずかしくて涙が出そうだ。しかも相手はあのユキさんで、しかも……
「なんで俺が女役なんだよ……」
枕に勢いよく倒れ込み、顔を埋めて拳で布団を叩いた。
もう一度大きな溜息を吐いてから起きあがろうとすると、下半身に妙な違和感を感じた。瞬時に嫌な予感が頭をよぎる。
俺は恐る恐る布団の中を覗き込んだ。
「………ウソだろ……」
俺はついにおかしくなってしまったのだろうか。ああどうしよう、どんな顔してユキさんに会えばいいんだ。しばらく何も考えたくない。
そういえばどこから夢だったのだろうと思ってスマホを手繰り寄せる。通話アプリを開いて、通話履歴を見ると、やはり昨晩ユキさんと電話をしていた。
つまりあの電話は夢ではなかったようだ。
「はあ………最悪、マジで」
俺は余計に重い溜息を吐いた。
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