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驚いて、ノックされた助手席側の窓の外を見やる。
そこにいた人物を目にし、俺は思わず扉のロックを解除してしまった。
「ごっめーん! まさかこんなに雨酷くなるなんて思わなくてさー」
折りたたみ傘を素早く閉じて、なんの躊躇いもなく乗り込んできたのは、まさかの俺の妻だった。
「あっくんほんとタイミング良すぎ! 今店から出てきたとこだったんだー」
子供がいる年齢だとは思えないほどに無邪気な仕草をする妻。
驚きのあまり、俺は何も声を出せないでいる。
「あっくん、信号青だよ!」
「え? あ、うん」
実を言うと、妻と会うのはかなり久しぶりなのだ。
もうずっと一緒に暮らしていなかったので、少し挙動不審になってしまう。
そんな俺に構うことなく、妻は何も変わらない雰囲気で話し続ける。
「あっくん、なんか痩せた?」
「え、そう思う?」
「うん。なんか雰囲気変わった」
「これでも少しは太った方なんだけど」
「そうなの? まあ体調崩してないならいいけど」
こんな俺を気遣ってくれる妻に、申し訳なさが募る。
「かなちゃんは元気?」
「元気だよ。元気すぎるくらい。誰かさんに似て強情で、自由奔放で、全く手が付けられないよ」
「あっはは。この状況でそんな嫌味言う?」
機嫌の良さそうな声に、少しだけほっとする。
でも、このまま娘が待つ駅まで着いたらどうなるんだろう。
きっと、久々に揃った両親に、酷く困惑するだろうな。
でも、このまま母親に会わせてやるのがあいつにとっての幸せだろうか。
ていうかそもそも、こいつは俺と一緒にいて大丈夫なんだろうか。
「な、なあ」
「ん? なに?」
軽い口調で返事をする妻。
にこやかに微笑んでいる。
「お、怒ってないのか?」
おずおずと、ストレートに聞いてみた。
こんなに会話を続けた後で、今更かなとは思ったけど、やっぱり聞いておきたい。
俺の質問に、妻は考えるポーズをしながら唸り声を上げる。
ハンドルを握る手に汗が滲んでいくのが分かる。
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