最後のドライブはどしゃ降りの彼方

3/7
前へ
/7ページ
次へ
 驚いて、ノックされた助手席側の窓の外を見やる。  そこにいた人物を目にし、俺は思わず扉のロックを解除してしまった。 「ごっめーん! まさかこんなに雨酷くなるなんて思わなくてさー」  折りたたみ傘を素早く閉じて、なんの躊躇いもなく乗り込んできたのは、まさかの俺の妻だった。 「あっくんほんとタイミング良すぎ! 今店から出てきたとこだったんだー」  子供がいる年齢だとは思えないほどに無邪気な仕草をする妻。  驚きのあまり、俺は何も声を出せないでいる。 「あっくん、信号青だよ!」 「え? あ、うん」  実を言うと、妻と会うのはかなり久しぶりなのだ。  もうずっと一緒に暮らしていなかったので、少し挙動不審になってしまう。  そんな俺に構うことなく、妻は何も変わらない雰囲気で話し続ける。 「あっくん、なんか痩せた?」 「え、そう思う?」 「うん。なんか雰囲気変わった」 「これでも少しは太った方なんだけど」 「そうなの? まあ体調崩してないならいいけど」  こんな俺を気遣ってくれる妻に、申し訳なさが募る。 「かなちゃんは元気?」 「元気だよ。元気すぎるくらい。誰かさんに似て強情で、自由奔放で、全く手が付けられないよ」 「あっはは。この状況でそんな嫌味言う?」  機嫌の良さそうな声に、少しだけほっとする。  でも、このまま娘が待つ駅まで着いたらどうなるんだろう。  きっと、久々に揃った両親に、酷く困惑するだろうな。  でも、このまま母親に会わせてやるのがあいつにとっての幸せだろうか。  ていうかそもそも、こいつは俺と一緒にいて大丈夫なんだろうか。 「な、なあ」 「ん? なに?」  軽い口調で返事をする妻。  にこやかに微笑んでいる。 「お、怒ってないのか?」  おずおずと、ストレートに聞いてみた。  こんなに会話を続けた後で、今更かなとは思ったけど、やっぱり聞いておきたい。  俺の質問に、妻は考えるポーズをしながら唸り声を上げる。  ハンドルを握る手に汗が滲んでいくのが分かる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加