忘却と食材と僕

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 僕は怒っていた。  あまりの激しい怒りにより何らかの新たなる力に目覚めてしまうのではないかと思うくらい、勢いよく憤怒していたのだが、一晩寝たら忘れた。  一体何に対して怒っていたのか、勢いよく忘れた。  一体何に怒っていたのだろう。  もしかしたら年を重ねるとは、こういうことを指すのかもしれない。しかし、それをまだ認めたくもなければ、このままでは頭の後ろあたりに粘性ある霧が掛かったようで何とも落ち着かない。僕はなんとか怒りの理由を思い出したかった。  昨日、妻と大喧嘩をしたことは覚えている。なんらかのきっかけで、妻と激しい口論になった。口論が白熱する中でお互いの怒りも白熱したものと記憶しているが、何がきっかけで口論となったのかが全く思い出せない。  喧嘩をしたという証拠に、妻は起きてから朝食を()った今に至るまで、全く口を()かなかった。喧嘩をすると、大抵こうなるので、喧嘩をしたことは確かなのだか、理由が全く思い出せない。  この場合、一晩経ってお互いの怒りが少し収まった頃合いで、それとなく謝ったり反省の念を伝えれば丸く収まることが多いのだが、今回は何に怒っていたのかを忘れてしまった以上、一体何に対して謝罪し反省すればいいのかが全くわからない。  どうしよう。何に怒っていたのかモヤモヤするし、このままでは仲直りもできない。  僕はとても困ってしまった。
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