忘却と食材と僕

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 無言ながらも妻は食後のコーヒーを差し出してくる。殊勝な態度に僕は受け取ったコーヒーに向かって小声でお礼を呟きながら、少し考えた。  ――何故、口論したのだろう。  妻に非があったのか、僕に過ちがあったのかすら、今となっては定かではない。  しかし大抵の場合、僕の迂闊な一言が妻の怒りに触れたり、僕の何らかの過失がバレて糾弾される中で僕が反論してしまい、喧嘩になることが多い。  となると今回についても同様な気もするが、今回は一体何をしたのだろう。  僕はもう少しだけ考えてみる。  ……もしかして、アレだろうか。  先日もらった夏のボーナスに関して、僕は妻へ、今回は2.0ヶ月分の支給であったと伝えた。そして2.0ヶ月分を夫婦の共同貯金へと入金したのだが、実は2.2ヶ月分出ていた。  それがバレたのではないだろうか。  僕は戦慄する。  だが、ここまで思い返してもピンときていないので、これではなかった気もした。  ――これではない。僕は安堵する。  危なかった。お互いにボーナスは全額貯金しようと約束していたのに、0.2ヶ月分は懐に忍ばせたままだ。これがバレていたらと思うと、ゾッとする。バレていなくて助かった。  というよりも、僕の0.2ヶ月分の支給なんて大した額ではないのだから、そのくらいでグダグダ言うなよ、とも思う。バレたわけではないのだけれど、もしバレていたら確実にグダグダ言われるわけで、そう思うとなんだか腹が立ってきた。なんなんだよ一体。
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