忘却と食材と僕

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 しかし、であれば、なんだろうか。  僕は他に思い当たる節を探る。  ……ひょっとして、アレか?  昨日、妻が歯医者の予約時間をメモしていた紙を探していた。暫く探しても見つからなかったので、直接歯医者へ電話して確認していたのだが、あのメモを捨てたのは僕だ、申し訳ない。  なんだか言い出せずにそのまま黙っていたが、ゴミだと思って捨てた、申し訳ない。  それがバレたのではないだろうか。  僕は震える。  しかし、バレたという記憶もないので、おそらくこれでもない。  僕は安堵する。  もしこれがバレていたらと思うと、ゾッとする。まず間違いなくグダグダと文句を言われている。そもそも、そういうものはカレンダーとか手帳とか、目につくところに書いておけよ、とも思うが、失くしたのは僕なので大きな声では言えない。  というよりも、むしろ部屋を綺麗に片付けようとした意思は称賛すべきであって、メモを取ったことに満足してそのあたりに放置した妻も悪い。にも関わらず自分を棚に上げてグダグダ文句を言うだなんて、厚顔にも程がある。許すべきではない。  バレたわけではないのだけれど、なんだか腹が立ってきた。なんなんだよ、もう。
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