忘却と食材と僕

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 他に何かないか、僕はもう一度考えてみた。  ……ひょっとして、アレか?  僕は八宝菜が嫌いなのだが、バレたのではないだろうか。  結婚する前、食べ物の好き嫌いを聞かれた時に、僕は格好を付けて、嫌いなものなど無い、と答えた。  以来、なんとなく訂正できずに好き嫌いは無いことで通してきたのだが、あの白菜とアンが絡まってヌメヌメした感じがご飯に纏わりつくと、口中が間延びした感じがしてなんとも不快なんだ、申し訳ない。  それがバレたのではないだろうか。  僕は恐れおののく。  しかし、どう記憶を辿っても、それを理由に口論していたわけではないので、おそらくこれでもない。  僕は胸を撫で下ろす。  もしこれがバレていたらと思うと、ゾッとする。  結婚してから約3年、運良く八宝菜を食べなければならない機会には当たらなかったが、もしバレていたら、間違いなくグダグダ言われる。見栄を張っていたことに対して、間違いなく見下される。  誰だって嫌いなものくらいあるのに、グダグダグダグダと、本当にうるさい。誰だって結婚する前は格好良く見せたいのに、なんで男心がわからないのか、理解に苦しむ。  バレたわけではないのだけれど、腹が立ってきた。なんで僕はいちいちグダグダ言われなければならないのだろう。
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