忘却と食材と僕

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「あなたも考えてよ、真剣に!」  僕が黙って様子を見ていると、妻が無茶を言ってくる。でも正直、僕の中ではもはやどうでもいいことになってしまったので、特に考えたくはない。  僕は適当に相槌を打ちながら、妻の悩みが収まるのを待とうと思う。 「あぁ、もう、全然思い出せない。なんなの一体。なんなのさ一体!」  しかし暫く経っても収まらない。  放置しておくのも忍びないので、たまらず僕は妻を(いさ)める。 「まぁもういいじゃない。たぶん、僕がボーナスをチョロまかしたこととか、そういうのがバレたんだよ、忘れなよ」  言い終わってから気付く。  ……つい、言ってしまった。  マズいのではないか。僕はもう墓場まで持ち込む心構えだったのに。一瞬にして体温が下がり出すのを感じたが、下がりきる前に妻は即座に返してきた。 「なにそれ、そんなことしてたの? でも、それじゃないのよ。そんなことはどうでもいいの。もっとどうでもいいことで怒ってた気がするの。お願いだからもっと真面目に考えてよ!」  ……なんだか想像していた返しと違った。  もっと、烈火の如く怒り散らすと思っていたのに。  どうやら妻は昨日の件を思い出すのに必死で、それ以外のことなど意にも止めていないようだ。  僕は少し考える。  ……もしかして、これはチャンスなんじゃないか。
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