忘却と食材と僕

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 僕は意を決して、もう1つ、放り込んでみる。 「じゃあ、もしかして歯医者のメモを僕が捨てたこと?」  さぁ、どうだ。 「違う。そんなのじゃない。別にメモを捨ててようが食べてようが、どうでもいい。お願いだから思い出してよ、モヤモヤするしイライラする。もっとどうでもいいことだったはず」  ――これはイケる。  妻は今、昨日の件以外には全く興味を示さない。  これは、間違いなく、今までの余罪を暴露してドサクサに紛れて許されてしまうチャンスだ。後で何かを言われても、どうでもいいという言質(げんち)さえ頂いておけば、正義は我にあるはずだ。  行け……もっと踏み込むんだ僕。  今まで言い出せなかったことを全部、この機にぶちまけてやるんだ! 「じゃあ、この前、残業と言って帰るの遅くなったけど、パチンコ行ってたこと?」 「違う。全然違う。もっと些細なやつを頂戴」  これはいい。なんだかすごく気持ちが良い。僕は続ける。
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