忘却と食材と僕

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「ちなみにその時、爆勝ちしたんだけど黙って懐に収めた。あと君が楽しみに冷蔵庫に入れてたちょっとお高いプリン、急に失くなってて驚いただろうけど、あれ食べたのは僕だ、美味しかった」 「だからどうでもいいって。もっとどうでもいいことで怒ってたって言ったでしょ?」 「あ、ちなみに八宝菜、嫌いなんで」 「いやだからなんなの!?」  すごく気持ちが良い。  なんだか楽しくなってきた。  まだまだイケる。僕のレッドゾーンはまだまだこんなものじゃないはずだ。限界ギリギリの走りを、妻に見せつけてやる。  僕は探す、今まで犯した罪を。  まだ、まだ何かあるはずだ。 「あぁ、それとさ、この間の……」 「もう何なの、さっきから!」  言いかけたとほぼ同時に、数瞬も空けず妻は声を荒げた。 「こっちが真剣に考えてるっていうのに、てんで的外れなことをグダグダと! ピーチク、パーチク、グダグダ、グダグダ! もはや思い出す気もないじゃない。考える気がないなら、いっそ黙っててよ、もう! 腹立つ!」  ……本筋ではないところで怒りだした。  確かに少し調子に乗ってしまった感はあるので、僕はビクッとなってシュンとなる。  妻は一通り憤慨すると、またブツブツと呟きながらコーヒーの水面を見つめだした。  これはもう、黙っていたほうがいいのかもしれない。
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