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沙耶香は、ここで気がついてしまった。
騙されて腹立たしいのと許せない気持ちはあるけれど、思ったより泣けないという事だった。
それでも、何度も調査報告をみてしまうのは信じられないと言うより信じたくない自分もどこかにいるからで。
「なんだか・・情けないよね。」
ふとこの時に「真実かどうかを調べたのか?」と言った宇佐美の顔が思い浮かんできた。
宇佐美英明は、ある程度、金子の裏の顔を知っていたと考えて間違いないと沙耶香は思う。
直接深い付き合いがない彼が沙耶香に「あの男は駄目だ。」と言わない言えないのはわかるが、もう少し傷が浅いうちに何か言ってくれても良かったのに・・と思う。
情報通の宇佐美の事だから金子が何を考えて現在どうしているのかを知っているはずなのに社内でこんな時に限って宇佐美の姿は無い。
沙耶香は、自分の中にある権力者の血というものを今回感じていた。
泣くよりも金子を痛めつけ報復したいという気持ちが強くなり彼にとって一番痛い方法で彼を拒絶する事にした。
泣くのは全てが終わってからでいい!
ただ泣くだけだなんて自分が自分で許せなくなる。
彼の良い訳を聞くだけ聞いて沙耶香は、金子直樹に全てを沙耶香が知っているという事を突き付けて完全に彼を切り捨てた。
その日は、沙耶香が待っていたはずの人、鏡恭介が鏡ホールディングス社長に就任したその日だった。
仲良くなった秘書課の手引きで役員や課長以上しか入れない就任挨拶の会場に沙耶香は潜りこんで愕然とした。
「あの人は・・。」
目の前で会長に紹介され社長として就任した人物は神田美夜と一緒にいたキョウで・・。
「増田くんが・・鏡恭介だったんだ!だまされていたわ~。」
と横で言う綾瀬円佳も驚いた顔をしていた。
3つの顔を使い分けて本来の「鏡恭介」として目の前にいる彼を父親が言うように落とせるなんて沙耶香には思えない。
彼の横には「神田美夜」がいる事をすでに嫌と言うほど知っていた沙耶香は、金子に騙された自分の愚かさが情けなかった。
そんな状況に火に油をそそぐように目の前に顔色を変えた金子直樹がいた。
怒りが最高潮になった沙耶香はネイルが傷つくのも構わず金子の頬を殴りそれでもスッキリしない気持ちを抱えながら恥じ入るばかりだった。
「この会社にはもう在籍できないわ。」
一条沙耶香としてのプライドがこのまま鏡ホールディングスに在籍するのを許せないでいたのだ。
荷物を簡単に片付け明日にでも辞表を出すつもりで夕方に帰宅する為にタクシーを呼んでいた沙耶香の耳に言い争う男女の声が入ってきた。
その現場を見たわけでは無いが気を失っている神田美夜を金子が黒い車に運び入れる所に遭遇したのだ。
「きゃあ!」と言いかけたが男の大きな手で口元を押さえられ手足を縛られて沙耶香もまたその車に押し入れられる。
「う・・う・・。」
暴れて逃れようとするが粘着の強いテープは外れず目の前には見た事が、無い男と金子が「見られたぞ」という男に金子は「一緒に売る。」と耳を疑うような会話が繰り広げられたのだった。
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