宇佐美の戸惑い

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宇佐美の戸惑い

新会社に一条沙耶香が入社したという話は聞いてはいたが、まさかその彼女が新プロジェクトの担当の一人として自分と接触して来るとは思わなかった宇佐美は躊躇いを感じていた。 例の事件の事もあり女性なら距離を取ってもいいはずなのにある日を境に笑顔でやってきては神田の指示通りに動いているのだろう。それ以上の働きをする事もある。 以前は、お飾りような子だと思ったが今は以前のような派手さは無いが上品な服装と化粧で印象がかなり違い「神田さんのようになりたいんです。」と初日に小さな声で言った彼女の言葉は嘘ではないと宇佐美は感じていた。 自分の出来ない仕事や苦手な事も上手に周囲を巻き込み仕事を進めている様子は小気味いいくらい潔く感じる。 神田美夜は、なんでも一人でこなす一匹狼のような仕事の仕方だったが沙耶香はそれと違って男であろうが女であろうが使えるものは全て使い最終的に仕事をこなしているようだった。 「先日は助かりました。」 「いえいえ。あれで大丈夫でしたか?」 「はい、うちの神田も感心していました。」 そう言って御礼を言いながら邪魔にならない手土産を渡す事も忘れない所は育ちだと宇佐美は感じ入っていた。 「宇佐美部長、一条さんってお嬢様ですよね?」 「ああ、そうだな。」 「気さくでいい子ですよね?」 気さくでいい子になった沙耶香は、男女ともに荒井産業では受け入れられていた。しかもいつの間にかビジネス英語もマスターしているようだった。 プレゼンの場面でも急な先方の切り返しにも対応できるのには驚くばかりで何が彼女をここまで成長させたのかと思った宇佐美だった。 それこそが沙耶香の作戦で宇佐美の興味をひく事ことこそ第一歩だと綾瀬に言われてそのように従っていたのだ。 「宇佐美さんのタイプってガツガツ行き過ぎは良くないのよ。変化に気がついてオッと思わせる事からなのよ・・そこからは押しが大事になるかも。」 「なるほどね・・頑張るわ!」 「それに彼は、女性関係の噂は無いし仕事で忙しすぎて女性どころではないらしいわ。」 「誰情報?」 「フフ・・鏡社長よ。」 綾瀬は、経理部で借りの姿だった鏡恭介と今でも繋がりがあるらしく宇佐美の情報を聞き出していたのだ。 一色の後を引き継ぐのは大変だったはずだという話や部下には、厳しい面もあるが目を配り成長や変化は見逃さないという鏡からの情報から綾瀬は、宇佐美のような男は見てないようできっちり見ていると予測していた。 だからこそ今回の作戦は、悪い結果にはならないという事に自信を持っていた綾瀬はそろそろ押せ押せの次期が来たと思っていた。
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