小説の中の主人公でいたい

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小説の中の主人公でいたい

 鏡ホールディングスに就職したお祝いに父に買ってもらったマンションは、一人暮らしをするには少し広い2LDKで使っていない部屋もある。 昨日、義姉に誘われて一緒に行ったネイルサロンで最新の流行のネイルを「いい感じ。」だと思って眺めお気に入りのセレクトショップで購入したスカートとブラウスを着てその服に合わせたアクセサリーをつけ完璧に装って会社へ出勤する。 「今日も完璧!」 父親の言う鏡恭介に出会った時の為に毎日完璧でいる事を自分に課している沙耶香は、美容に手を抜いた事はない。しかし、一年すぎ二年目になるのに彼に出会った事もなければ噂だけ聞くだけ。 「海外にいるらしいわよ。」というのが有力情報だけど本当の事は、誰も解らないし沙耶香の父親に聞いても必ず近いうちに次期社長として来るはずだとしか言わない。 沙耶香の母が実は・・と教えてくれた真実は「お父様は鏡恭一郎さんに好きだった女性を取られたのよ。というよりお父様は、彼女に相手にもされなかったみたいだわ。」と母は笑いながら言った。 母と結婚する前に父が恋をした女性が鏡恭介の実の母親だと言うのだから自分が、恋に破れて娘でリベンジなのかと思うと呆れてしまう。 高校生の頃から恋愛小説を友人達から勧められて読むようになってから、自分の家庭が異質である事を知って自分も恋をしたい愛されたいなんて思うこの頃だったけれど、現実はいまだに政略結婚回避の為に父親の命令に従い受付嬢をしている毎日。 そもそもが、ここにいてたとえ鏡恭介と出会って恋に落ちたとしても父親達がいる世界と同じだという事かもしれない。 経済界は特殊な世界だと最近は知ってしまった・・・昨日も義姉と話をしていたが兄がまた新しい恋人を作ったという。 「仕事の出来る男ほど女は複数が当たり前よ。」 そう言う義姉は、彼女も負けずにホストクラブにお気に入りの若い子が何人かいると言うのだから異常な夫婦だけど二人がお互いにいいのなら口を挟む事ではないと沙耶香は思う。 だから、御曹司の鏡恭介と出会い上手くいっても沙耶香一人を愛してくれるとは限らないそれを覚悟しないといけないと思うと悲しく空しく感じはするが、そうれが現実だと思い込んでいた。 毎晩読む小説の世界は、あくまでも物語で現実は沙耶香のいる世界なんだ思う。 少なくても沙耶香の親しい人達はそうだった。 沙耶香は、心のどこかでまた違う世界があるかもしれないと思うそして、淡い希望も抱きながらマンションの前でタクシーを捕まえ会社へ向かう事にした。
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