プロローグ

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プロローグ

「女は馬鹿になれる賢さが必要なのよ。」 これは、母の言葉。 愛人を囲っている父親の前で穏やかに笑い 愛人が突撃してきても笑って、 「主人がお世話になってます。」 なんて平気で言う。 妻の座は、どんな女が来ても渡す事はないだろうと娘から見ても当たり前のように思う。 父親は、秘書か家政婦から報告を受けたのかそんな夜は、母に大きな花束を買って来るのは謝罪のつもり? 「あなた・・綺麗な花束ありがとう。」 「君を思い出したら買ってしまったんだよ。」 そんな芝居を何度も見せられていてそれが当たり前、世間も同じでこれが、普通の結婚で普通の夫婦だと思っていた。 両親は、先日亡くなった祖母の決めた政略結婚でそこに最初から愛は無いとは思うがお互いに役割は理解していて、兄や沙耶香を愛してくれてはいたから家族として成り立っていた。 祖母が生きている時に兄は、義姉と結婚したがこれも祖母が決めた政略結婚であの二人はドライにお互い生きている。 嫌い合うのでもなく自由にお互いに世間では言う「不倫」は当たり前の夫婦だが意外に二人が険悪で無いのはこの世界で生きているから。 この世界の常識は非常識・・それでも沙耶香の生きる世界だった。 恋愛して結婚では無く決められ与えられた役目の為の結婚が当たり前の世界。 祖母が無くなり少しその常識が変化してきた 様には感じていたある日、父からの「鏡ホールディングスに就職して御曹司の鏡恭介をものにしろ。」と言う指令。 娘に言う内容なのか?とも思ったけれど、政略結婚では無いし今後も政略結婚はすすめないという条件で引き受けた。 2年ほど鏡ホールディングスの受付をしているが、その彼を見た事は無い。そんな退屈なある日、声をかけてきた人物がいた。 その人と付き合い恋だと思った・・愛だと思った。 現実は、厳しいと後で知る事になったけれど・・この時の彼の言葉は耳に心地よく何時までも出会えない男より魅力的に思えたのだった。 鏡ホールディングスの営業課のエリート社員の金子直樹。 彼との出会いこの時は、素敵に思えた彼がではなく彼が与えてくれる賛美は居心地がよくて初めての彼という訳では無かったけれど年上の彼は大人に見えた。 これが恋で愛されてずっと幸せになれるって思っていた・・それが砂の上の城だったと経験するまでそう信じていた。 本当の恋を知らなかったこの時、それは、かりそめの恋だと気がつくのは先の話だった。
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