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「白いパーカーを着た少女を見なかったかい?」
「・・・いや、全く見てない。」
見るからに怪しい連中だ。むやみにあの少女のことを教えないほうがいいかもしれない。私はそう思い、とっさに嘘を言った。
「・・・。」
「こいつ、嘘ついてるぞ。」
河童は、私を嗅ぐと、少年っぽい声で言った。
私の動揺した様子がバレただろうか。だとしても、私は微動だにしてなかった。
「嘘? 鼻で嗅ぐだけで分かるのか?」
「あんなの、妖怪らしい演出だよ。言う前に間があった。」
河童がそう言うと、残りの二人は、溜息をついた。河童は、何かを隠すように、焦った様子で言った。
「おいらたちは、妖怪じゃないけどな。うん、うん。」
こう言えば、いいんだよな。彼は、二人を見ながら、何度も相づちを打っていた。
「妖怪じゃない? なら、これは、お面か。」
私は、河童のクチバシを引っ張りながら、聞いた。
「いててて! そ、そうさ。これはーー。」
半泣きで笑う河童を見て、熊がクチバシを引っ張る私の手を掴んだ。手を放し、熊は、低い声で言った。
「あんた、これが本当にお面だと、思うのか?」
三人は、何か良からぬことをしそうな笑顔を浮かべ、近づいてきた。三人は紫色の煙を巻き上げ、姿を消した。
「・・・。」
首を傾げ、再び家のほうへ振り返った時、やつらがいた。
目にしたのは、三体の妖怪だった。
全身に包帯を巻いたミイラ、堅そうな筋肉質な肉体を持つ赤鬼、鬼のような顔をした巨大な南瓜、彼らが徐々に迫ってくる。
私は驚いた。驚いたというのは、決して怖いという意味ではない。
「これは、凄い。ミイラに鬼、そしてジャック・オー・ランタン!近くで見れるとは思わなかった。」
小学生の頃から、妖怪や幽霊などの摩訶不思議な現象に関心があった。そのため、現実で見るのは、この上なく嬉しいことだった。
興奮のあまり、鬼の頑丈な腕を触り、南瓜を転がしたりもした。
意外な反応に、彼らは、困っていた。漫画なら、頭から一滴の汗が出ているところだろう。
気づけば、ミイラの包帯を全て取っていた。
「キャッ!この中、裸なのよ!」
包帯を取った姿は、さっきの鶴だった。浴衣を着ていて分からなかったが、意外に、全身も鶴の体だった。体を覆う羽毛が風でなびいてる。フワフワとして、気持ちよさそうだ。彼女は、恥ずかしがって背を向けた。
「なんだ、化けていたのか。」
「いや、分かるだろ。」
南瓜が少年っぽい声でツッコミを入れた。
「貴様、俺たちをおちょくってるのか。」
赤鬼は冷静だ。だが、幽かに怒りを覚える。
「いや、妖怪が好きなだけだ。」
「なら、妖怪好きには、醍醐味も教えねえとな。恐ろしさってやつをよーー!」
妖怪たちが襲ってきた。
まず、赤鬼が口から火を吐いてきた。私は、とっさにしゃがみ、避けた。
「びっくりした。危ないだろ!」
私は、立ち上がり、𠮟りつけた。それなのに、赤鬼は、笑いながら、後ずさりをした。
次は大きなカボチャが突進してきた。触感は、まさに南瓜だった。包丁で切るのも精一杯なあの硬さそのもの。ぶつかった衝撃で、私は車道に投げ出されてしまった。
すると、向こうから車が全速力で走ってきた。
尻もちをついてから、動くのがやっとだった。もう、間に合わない。三人に助けを呼んだとしてもだ。ちなみに、三人は、私を見ながら、何やら口論をしていた。多分、私を車道へ突き落としたことを、「やりすぎだ」と言い合っているのだろう。それより、助けるのが第一だと思うが。
大きな走行音とエンジン音が音の大きさを増す。
やがて、二つの光が姿を現した。大型のトラックだ。
倒れていることに気づく間もなく、勢いよく走ってくる。
「私の最期は、妖怪に殺される、か。」
目をつぶり、死を悟った時、何かに手を掴まれ、引っ張られた。
ふんわりした衣の感触、強く引っ張られる感覚もなく、自然と動かされていく。
目を開けると、橋から離れ、自宅に近い住宅街にいた。
「お兄さん、大丈夫?」
少女の声だ。小学生ぐらいだろうか。高くて、明るい声をしている。聞くからに、少女の声だ。
見上げると、猫のお面を被っているのが見えた。お面の両端からは、下ろしたショートヘアも少し出ている。
「あ、あぁ・・・。」
お兄さんと呼ばれ、私は少し照れ気味に返事した。
「全く、あいつら、やり過ぎだよね。」
「ハハッ、そうだな。危うく、死ぬとこだったよ。あれ、さっきのやつらは?」
「逃げてきたんだから、いないに決まってるじゃん。」
当たり前のように言われるが、さらに頭が混乱した。ほんの数秒前に何があったのか。
「うん?申し訳ない。君と逃げた覚えがないが。」
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