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「我が家に来てくれたらいいのにね」
「由布子さんは来ないよ、離れが大好きだもん」
母はこの家に一緒に住まないかと、5年程前から由布子さんを誘っている。
けれど、由布子さんは「私は一人が気楽なの」と、いつもやんわり断っていた。
だからといって、人嫌いなわけじゃない。いつだって私や母の訪問を迎え入れてくれたし、仕事の関係者さんだって、ウェルカムでもてなしていた。
由布子さんは、あの家が大好きだから離れたくないだけなのだ。
水色の壁にエンジ色の三角屋根、ポストには小さな風見鶏がついた可愛らしい洋館。
50年前に由布子さんが自分で建てたその離れは、まるで童話の世界にでも出てきそうな雰囲気をかもしだしている。
多少窓枠がガタついていたり、ところどころ建付けが悪かったりもしてるけれど、手入れは行き届いていた。
甥である父が、時々、日曜大工で直してあげていたりもするし、本人が大の掃除好きだったりもするから。
普通のご老人よりも元気で明るく何よりもお洒落で、いつまでも由布子さんは若いんだ、もしかして年を取らない魔法使い? なんてつい最近まで本気で思っていた。
ただ現実は残酷。御年94歳。もうすぐ95歳になるこの一年で、由布子さんは少しずつ色んなことができなくなってしまった。
物忘れも年々酷くなっている。
いつまた今日のようなことがあるとも限らない。
そう思うと心配で仕方なくて――。
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