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「ねえ、お母さん。私が由布子さん家に住もうかな」
「それ、いいかも」
お母さんは私の言葉の意味を噛みしめて、笑顔を覗かせた。
来てくれないなら、こっちから出向けばいい。
一緒に住むのが私ならば、由布子さんはきっと歓迎してくれる。
松野由布子さんは、私が小さい頃に亡くなった祖母の長姉だ。
生涯独身を通し、実家の敷地内に洋館を建てた少し風変わりな人。
どんなに年をとろうとも少女のような雰囲気を纏わせている由布子さん。
おばさんとかおばあちゃんと言われるのが大嫌いで、だから私や母も由布子さんと親しみをこめて呼んでいる。
特技はお菓子作りと紅茶を上手に淹れること、趣味は温室でキレイなお花を咲かせること。
それから、由布子さんにはもう一つ名前がある。
絵本作家の『まつの ゆう』先生。
昭和から平成にかけて小さい子に大人気の由布子さんの絵本は、何度も重版されて今も店頭に並んでいる。
体調不良が増えたため10年前に引退してからは、趣味程度で時々書いているみたいだ。
「サナが仕事に行っている間は、なるべく私が由布子さんと一緒にいるようにするわね。夕飯なんかはお母さんに任せて」
母の提案に頷いて、思い立ったがなんちゃら。
その日の夜から、物置部屋と化していた由布子さん家の二階の六畳間に引っ越したのだった。
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