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「あらあら? サナちゃん? どうしたの?」
昨夜、由布子さんには一緒に住むことを伝えたというのに、朝起きたらそのことをすっかり忘れている模様。
小さなキッチンで朝食を作る私の背中を見て、『なぜ、ここに?』と驚いた顔をしていた。
まあ、そんなのは想定内、私の顔と名前が一致しているならそれでいい。
「由布子さん、今日から、しばらく一緒に住んでもいい?」
昨夜伝えことと全く同じ説明をする。
「どうしたの? なにか、あったの?」
ああ、まるでデジャヴ、これも昨夜の繰り返し。
「ううん、なにも。ただね、しばらく由布子さんと一緒にいたいなあって。ダメかな?」
「ダメなわけないじゃない、嬉しいわ。サナちゃんが気の済むまでずっといてちょうだい」
何も疑わず気遣ってくれる優しい眼差しに少しだけ罪悪感を感じる。
だって由布子さんは、私のことを心配してくれているんだもの。
その顔を見て10年前のことを思い出してしまった。
あの時も由布子さんは私を心配してくれていた。
『おかえりなさい、サナちゃん。よく頑張ったわね』
私を包み込む優しい由布子さんに、甘えるように泣いた日のこと。
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