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寝る前に部屋を覗いたら、由布子さんはとっくに夢の中だった。
安らかな寝顔に、思わず息をしているかを確認し静かに扉を閉めてから、廊下の暗さで気づく。
隣の仕事部屋から漏れる明かり、まだ電気がついたままだということに。
由布子さんを起こさないように、物音を立てないように部屋に入り込む。
机の上のシェードがついた可愛いランプを先に消そうとして、由布子さんが夕飯前に書いていた絵本に目が留まる。
『虹の国の王子様』
由布子さんの書くお話の中には、王子様が出てくるお話も多い。
乱雑に広がったページを一枚、一枚並べながらお話を想像しようかとも思ったけれど、表紙以外はまだ真っ白。
まとめて机に置こうとして、その下にあった赤い革表紙の小さな本が目に入った。
本? いや、ノートのようだ。
少しでも乱暴に捲ったなら、全てがバラバラになってしまいそうなほどに古いもの。
見てはいけないものかもしれない、けれど好奇心が先立ってしまって。
心の中で『由布子さん、ごめん』と呟いてからゆっくりと開く。
昭和16年6月5日晴れ
きっと、あの人だと思うの!
絶対にそうだと思う、うん、絶対に!
見つけた、私の王子様!!
それは由布子さんが書いたと思われる長い長い日記だった。
青春時代の由布子さんが、そこにいた。
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