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戦時中の見たこともない風景のはずなのに、由布子さんの表現力のせいだろうか。
焼け落ちた町の景色や、戦闘機の爆音や、それから風にのった火薬の匂いまでもが、ありありと浮かんでくるようだった。
その辛い状況下の中で由布子さんときたら、今とちっとも変わってなくて。
動じるどころか、戦争に怒ってみたり。
それよりも、もっと人間としての大事な感情が生々しく書き綴られているのだ。
由布子さんらしい日記に、いつしか私も感情移入していく。
時に恥じらったり、笑ったり、泣いてみたり。
由布子さんの日常はとても優しくて愛に溢れていて、そして切なかった。
最後のページに描かれた由布子さんの鉛筆画は、『虹の王子様』の元となるような絵。
ただしそれには虹の上を歩く王子様はいない。
虹を見上げるような兵隊さんとおさげ髪の女の子が手を繋いでいる構図。
そして、一枚の古びた写真。
ああ、この人が由布子さんの王子様だ。
そう思ったらもうこみ上げてくるものを抑えきれなくなって。
由布子さんを起こさないように静かにすすり泣いた。
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