35人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日、大変だったのよ。由布子さん家からボヤが出ちゃって」
「嘘でしょ?! 大丈夫なの?」
母から今日の出来事を聞き、慌てて離れの灯りを確認する。
家の電気は消え、既に眠っているみたい。
由布子さんはガスコンロにお鍋をかけていたのをすっかりと忘れ、温室のお花に水をあげていたらしい。
どこからか漂う焦げたような臭いに気づいた母が、慌てて駆け込んで事なきを得たとのことだった。
「まあ、ボヤですんだし、由布子さんは無事だったからね。ただ、お鍋が一つダメになったわね」
笑えない冗談を言う母に顔をしかめた。
「由布子さん、なにを作ってたの?」
「多分、アップルパイじゃないかしら」
「多分?」
「だって鍋の中は真っ黒になっていたし、由布子さん自身が何を作っていたのか覚えてないって言うんですもん」
キッチンの中に剥いたリンゴの皮が無造作に放置されていたらしい。
昔からお菓子作りの得意な由布子さんのことだ。
アップルパイのリンゴでも煮ていたのだろう。
それにしても、何を作っていたのか覚えていないなんて、いよいよ、か。
小さくため息をついた私に、母も仕方なさそうに笑う。
最初のコメントを投稿しよう!