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打ち水
じょうろで打ち水をしていましたところ、主人が「風情がないねぇ」と申しました。
はて、風情のある打ち水とは。
しばらく考えあぐねた末、納屋から手桶とひしゃくを持ち出して参りました。
ですが、庭先で花の剪定をしていた主人は、誇らし気に手桶とひしゃくを持つ私に、それはそれは盛大にため息をついたのです。
あまりにも大きなため息でしたので、主人の足元に落ちていた葉っぱ達は、みなてんでにどこかへ行ってしまいました。
はて、なにか間違えたでしょうか。
主人は私から手桶を受けとると、向きを変え持ち直し、私の前につき出しました。
「こんなあからさまに墓参り用の、何々家と書かれた手桶。まだホースやじょうろの方が良い」
言われてようやく気づきました。
よそ様に見えない、庭に持ってきて本当に良かった。
誇らし気に玄関先に打ち水でもしていたら、危うくあそこの奥さまはと笑われてしまうところでございました。
主人はそれだけを言うと、小さく笑いまた剪定をはじめました。
そんな背中を見ていると、だんだんとムカムカとしてまいりました。
では風情がある打ち水とは、どういったものなのでしょう。
名前さえ書いていなければ、手桶とひしゃくが一等風情があると思います。
しかし、そんな事を言っていても仕方がありません。
喧嘩になるだけだと、重々承知でございますとも。
手桶とひしゃくを片付け、じょうろを持ち直し再び庭へ。
唸りながらああでもないこうでもないと花とにらめっこする主人の足元に、涼しくなぁれと水をひっかけてあげました。
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