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彼は、夢の内容を整理すると共に、懐古をしていた。又、過去の己を憎んでいた。どうしようもない程、彼は、過去の彼を憎んだ。下賎な感情を隠しもせず、相手の気持ちを考えなかった己をひたすら憎んだ。恋慕のベールを被っただけの醜い性欲を御しえなかった自分をひどく憎んだ。
彼は彼自身のことが嫌いで、居た堪れない気持ちになった。こういう時の彼の心持は殆ど、吹き荒ぶ嵐と同義だった。
そこで、ふと気がついた。彼は、当時の椿村と共感できていたのだ。彼は、恋慕する相手との唯一の共感する手段が、自己嫌悪であることを閃いた。彼も彼女も、彼が嫌いだと言う点においてのみ、感情が一致していると彼は考えた。
彼は微笑を浮かべながら、部屋の明かりを消した。暗がりに目が慣れなかったが、外を見ると、雲が晴れていて、月が煌々と輝いているのを見た。こんな激しい自己嫌悪のなかでも彼の心持は自然と弾むようだった。
彼は人生で一番月が綺麗に思えた。のみならず、世界を愛していた。
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