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闇に這うもの
目の前は薄暗い一本道。灯りがかろうじて道々を薄く照らす夜の頃。後ろに迫るのは、影に隠された息づく何か。視界に入らなくてもわかる災いを纏う蠢き。立ち止まったらどうなるかは今のところ知らないが、足を動かす以外選択肢はない。
俺はこの近くの街を目指して焦り進む。なんのためか自身の腿に平手打ちをかまし、檄を飛ばす。ただ痛いだけだった。腿をさすり気を落ち着かせ進む。
もうすぐ街の真正面に差し掛かる。安堵の息を吐いた。すると体全体が緩んだ。その瞬間あっという間に 足を挫いて、そのまま地面に滑り込んで倒れた。俺は瞬時に両手で体を持ち上げ、上半身を捻り後ろを見る。
迫るものの姿が見えた。
その姿は、四足歩行の日本生まれの柴犬だ。
しかもリールが繋がったまま、飼い犬のようだ。
俺は立ち上がった。服についた砂埃を払い、屈伸運動で足首の怪我の有無をはかる。問題ない。怪我はしていない。
柴犬に近づき、リールを手首に通し、掴む。
柴犬はさっきまでの運動のせいか口から舌を遠慮なく出して俺を上から見据えている。顔は読み取れないが笑みをこぼしている。
さてと飼い主を探さないとな。今頃困っているだろうな。お前もそうだろ?
柴犬は返事をしない。それでも両目はキラキラと映っていた。
俺は一本道を戻り始めた。臨時の用心棒と共に。
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