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forget-me-not
青い石、灰色の石、白い石。光を孕みくるくると。
僕はパレットに絵の具を乗せ、その光景を写し取る。現実よりも鮮やかに、夢を希望を願いを託す。
オープンテラスのカフェの隅。間借りしているうちにすっかり店長と顔なじみだ。
今日はサンドウィッチの試食を頼まれてたりする。ありがたくて涙がでそうだ。
僕が酷く食事に困る事態にならないのは、偉大な先達のおかげでもある。彼とすこし似てるからって時々言われるんだ。ほら、噂をすれば。
尊敬する小柄な影がテーブルの脚を潜り抜けた。
「やぁボス。今日も凛々しいね」
帽子を下げて挨拶すれば、ロシアンブルーの彼はにゃおんと鳴いた。彼の髭がピンっと立っている。何かに興味を示している証だ。
青い影がひとつ落ちる。綺麗な影だ。
僕は視線を上げた。
「あの、似顔絵を描いて頂けませんか?」
儚げなご婦人はそう仰った。
僕は似顔絵描きを生業としている。風景のスケッチだけして生きていけたらいいのだけどね。
僕は無言で看板を示す。料金と注意書き。
~ただし何が写っても、僕は責任を持ちません~
彼女はこくりと頷いた。思い詰めた表情。どうやら、正真正銘、断らない事にしている方の依頼人らしい。ごめんよ、ボス。キミを描くまで待っていてくれるかい?
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