⑪★足跡

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⑪★足跡

「お兄様ーー!」  遠くから聞こえてきた声で誰が帰ってきたのか分かった。  レオンは店先の商品の埃を落としながら、微笑んで振り向いた。  馬車から顔を出して、手を振っているのは妹のアデルだ。その呼ばれ方が慣れなくて、レオンはいまだに照れてしまいくすぐったい気持ちになった。 「お帰り。あぁ、すごい荷物だね」  店の前で止まった馬車からアデルが飛び降りてきて、大きな鞄を二つも抱えていた。  慌ててレオンは近寄って、その鞄を持ってあげた。 「つーか……じゃなかった。というか、宿題が多いんですのよ。本当に嫌になりますわ……おほはほ」 「…………相変わらずだね。その喋り方、懐かしくなって、たまに聞きたくなるよ」 「あれ?父さんは?」 「仕入れに行ってるよ。最近はしっかり働き出して嘘みたいだよ」 「兄さんがいなくなっても大丈夫だって心配かけたくないんじゃない?ほら、シドヴィス様も卒業だしね」  今、アデルは学園に通っている。もともと、学園の入学許可はアデルに出たものだったし、本人も変わりたいとやる気を出したので、あの家出騒動の後からは、レオンではなくアデルが学園に入ることになった。入れ替わりは終了というやつだ。  同室の友人、ミレニアに事情を話して、ディオ、シドヴィスの協力も得て、言葉遣いはまだまだだが、何とか上手くやっているらしい。  今は恋愛よりも勉強が楽しいらしく、上級生からモテるらしいが、誘いは全て断って毎日机にかじりついているらしい。目標は雑貨店を大きくすることだとハリきっている。  レオンは元の生活に戻り、父親が適当にやっていた店をまた一から立て直して、やっとまともに営業できるようになったところだ。 「休み中は?どこか行く予定があるの?」  荷物を家に運んでから店に戻り、中でお茶を入れてアデルの前に置いた。  雑貨店は改装して、カフェスペースを作って、気軽にお茶が飲めるようにした。お昼時の今は人がいないが時間によっては、かなり混むこともあり、こちらはなかなか盛況だ。 「ミレニアと買い物行くくらいかなぁ。後は店手伝うよ」  父は相変わらず自由人のマイペースだが、アデルの一件もあって、父なりに心を入れ換えたようで、ちゃんと店をやってくれるようになった。 「兄さんは来月の卒業式の後、すぐ引っ越しでしょう。そんで、年明けには結婚式だっけ?」 「う……うん。まだ店が心配だし早いかなって思っていたんだけど……、シドがどうしても早くしたいって…………」  もじもじしながら赤くなっているレオンを見て、アデルはご馳走さまと言ってため息をついた。 「今度新しい人を雇うんだし、そんなに心配することないって。シドヴィス様の仕事を手伝うことになっているんでしょう。うちのことは気にしないで、ラブラブ新婚生活送ってくださいな。というか、今でも週末はアツアツみたいだけどねー」  アデルの遠慮のないツッコミに、レオンは飲んでいたお茶を噴き出してゴホゴホとむせた。 「大丈夫ですか、レオン様、こちらを……お召し物が汚れます」 「あ……ありがとう、セイジ」  可愛らしい小物が並んだ店内に非常に不釣り合いなデカイ男が腰を屈めてレオンの服を一生懸命布で拭いている様子をアデルはぽかんとした顔で眺めていた。  セイジはシドヴィスが学園にいる間、側にいられないので、代わりに用意されたレオン専属の護衛だ。シドヴィスとは乳母兄弟で、ずっとジェラルダン家に仕えてシドヴィスの下で働き、シドヴィスが信頼している男だ。  大きく逞しい体つきで、剣の腕は一流、王宮で行われた大会でも優勝したほどの凄腕だ。  短く切り揃えた金色の短髪に浅黒い肌、緑の瞳は迫力があって、猛獣のような風格がある。睨まれたら動けなくなりそうな強面である。レオンも最初はびくびくしていたが、寡黙で無表情であるが、実は優しいということが分かって、それからは気楽に接している。  それに、店の回りにはゴロツキがたまることがあるので、レオンとしては助かっている。何もないときはレオンの背後に立って動かない、職務に忠実な男だ。 「……気にするなって言われても……、あんな怖い顔の人がいたら気になるんだけど……」  アデルが怯えた目をしながら小声で話しかけてきたので、レオンは安心させるように大丈夫だよと言って笑った。  シドヴィスと暮らせるようになれば、セイジもジェラルダン家の仕事に戻れるだろう。ずっと付いていてもらうのは申し訳なかった。最近は店の仕事まで手伝ってくれて、色々世話まで焼いてくれるようになって、ますます申し訳ない気持ちになっていた。 「そうだ、あにっ……じゃなくて、お兄様はいつ頃出発するの?」 「ああ、もう少ししたら、迎えに来てくれると思うけど」 「はぁー……いいなぁ。シドヴィス様と船に乗って、ヘレナ島かぁ……羨ましいー、けど一緒には行かないからね。楽しんできてー」  学園の二週間の休みを利用して、レオンはシドヴィスと旅行に行く計画を立てていた。  場所はジェラルダン家の別荘があるヘレナ島で、港から船に乗って向かうことになっている。  シドヴィスとは週末会っているが、普段は学園と町で離れていて、久しぶりに長く一緒にいられるのでレオンは楽しみにしていたのだ。 「レオン様、シドヴィス様が到着する前に、旅行鞄の中を確認しましょう」 「え?だって……もう三回も確認したのに……」 「道中何があるか分かりません。ヘレナ島周辺はアーサーの組織の本拠地もあります。さっ、もう一度最初から入れ直して確認しましょう。本当に忘れ物はありませんか?」 「あっ……下着が一組足りないかも!これだと少ないかなって……」 「では俺が持ってきます!」 「いっ……いいって!引き出しは……自分でやるから!」  突然世話を焼き始めたセイジとレオンのやり取りを、アデルが呆れた目で見ていたら、店のドアがガラッと音を立てて開いた。 「店の外まで楽しげな声が聞こえましたよ。全く何をされているんですか?」 「シド!」  一週間ぶりに見るその姿にレオンの顔は喜びで花が咲いたように明るくなった。微笑みながら手を広げたシドヴィスの胸の中に、レオンは走っていって飛び込んだ。 「レオン……会いたかったです。代表生の引き継ぎに時間がかかって遅くなってしまいました」 「ううん……大丈夫。シドを待ってる時間も実は楽しいんですよ。今何を考えてるかななんて想像したりして……」 「それは……可愛いことを。でも答えは簡単すぎますよ。いつもレオンのことばかりですから……」  迎えに来て早々、すっかり二人は自分達の世界に入ってしまい、アデルがため息をつきながらお茶をガブガブと飲み干す音が店内に響いたのだった。  □□ 「シド……だめ…。だめだよぉ……こ……声出ちゃ……から……」 「こんなにトロけているのに?ほら、私のモノを上手に飲み込んでいますよ。やめていいですか?」 「だっ……だめ…。あっ……動いちゃ……あっああんっ!」  船の揺れに合わせてシドヴィスはレオンの中をぐりぐりと擦ってくるので、レオンは我慢していたがたまらず大きく喘いでしまった。  そんなレオンを愛しそうに見つめながら、シドヴィスは熱い息を漏らしながらゆっくりと抜き挿しをしてきた。 「レオンが店内であんな可愛いことを言うので……、あの時点ですでに半勃ち状態だったんですよ。もう……悪いこですね」 「あっ……そんなっ……あっあっ……んんっ……」 「しかもセイジとあんなに楽しそうに準備したりして……、私を煽るのが上手いですね……向こうに着いたらと思っていましたけどもう我慢できませんでした。景色は向こうで堪能しましょうね」  馬車の中ですでにお尻をいじられていたが、その状態で船に乗って我慢できるはずもなく、景色を見る時間もなく個室に引っ張りこまれた。いつものようにシドヴィスはレオンを口でイカせた後、後ろをとろとろにしてから、向かい合う体位で挿入してきた。 「あぁ!見てください!こちらのレオンは私の動きでぷるぷる揺れています。あぁー可愛いー可愛すぎる!景色よりもこちらの眺めの方が最高です」 「だっ……ああっ……いっ……シド…そ…な……大きくしないで……」  レオンのぺニス大好きなシドは眺めているだけで興奮するらしく、レオンの中でどんどん大きくなるので、その度に快感が強くなりレオンは掠れた悲鳴のような声を上げた。 「結婚式はもうすぐですし、たくさん子種を注ぎ込んで早く子供ができるようになるといいですね」 「んっ……赤ちゃ……あっ……んんっ」  男性同士のカップルが妊娠するためには、子種を受ける側が何度も精を体に取り込むことで、体内に子宮が作られて発情期が現れるようになる。  その期間に子種を受けることで、妊娠する仕組みになっているらしい。学園の授業でだいたいは習っていた。  それがいつになるか、どのくらいかかるのか、個人差があるらしく、長い道のりに感じた。 「焦る必要はないですよ。レオンとの時間も大切にしたいですから」 「んんっ……、シド……いっぱい……ほし……」 「ふふっ……可愛いレオン。そろそろ、我慢できなくなってきました。動きますよ」  ゆっくりと動いていたシドヴィスは徐々に動きを速めていく。じゅばじゅばといやらしい水音が響いて興奮を煽っていくが、シドヴィスはわざとなのかレオンのイイところを擦ってくれなくて、レオンはもどかしい思いに気が狂いそうになった。 「シド……シド……、もぅいじわる……。もっと、擦って……俺の気持ちイイところ……ぐちゃぐちゃにしてよぉ……シド……早く」  レオンが見せる乱れた姿にシドヴィスは興奮でぶるりと体が震えた。途端に獣のように激しく腰を打ち付けて、レオンの唇に食らいついてきた。 「んっふっ……っ……んんんっんん!!」  今度は気持ちイイところ目掛けて激しく中を突かれて、そこを擦られたレオンはたまらず追いつめられて、シドヴィスをぎゅうぎゅうと締め付けて白濁を撒き散らして達した。  間もなくシドヴィスもレオンの名前を呼びながら詰めた声を上げて、レオンの最奥にどくどくと熱い放流を解き放った。その熱を感じたレオンも、小さく声を上げてシドヴィスをぎゅっと抱きしめた。  そして、シドヴィスの腰に足を絡ませて、耳元に口を寄せて切なく囁いた。 「シド……足りない……足りないよ。もっと……いっぱい欲しい」 「レオン……、はぁ……あなたはどこまで私を溺れさせるのですか……」  そう言ったシドヴィスは、レオンのおねだりに嬉しそうな顔をして再び唇重ねて動き出したのだった。  ジェラルダン家の別荘は海辺に建っていて、バルコニーからは見事な水平線が見えた。  バルコニーの柵に掴まって、沈んでいく夕日を見ながら、その美しさにレオンは感嘆のため息を漏らした。  シドヴィスはレオンを後ろから抱きしめていて、ふわふわと柔らかい髪の毛をとかしながら、頭にキスを落としていた。 「こんなに綺麗なものが見られるなんて……、本当に夢みたいです。連れてきてくれてありがとうございます」 「これまで色々と国を回ってきましたからね。レオンに見せたい景色はたくさんあります。毎年、時間を作って行きましょう」 「…………うん」  レオンはこれまでのことを考えていた。父の言われるまま、自分のことは後回しで必死にもがいていた人生は毎日忙しかったが孤独だった。  自分はずっとこのまま、楽しそうに歩く人々を見ながら消えていくのだと思って外を眺めていた日々。  それがまさか、妹と入れ替わって学園に通い、出会うはずのなかった人と出会い、結ばれることができた。  自分はなんと幸運に恵まれているのだろうと、朝、目を開ける度に思うのだ。 「レオン、私はよく思うのです。レオンがもし入れ替わって学園に来ることがなかったら……、私達は出会うことがなかった……」 「そうですね、あれがあったから……」 「ええ、でもあそこで出会わなくとも、私達はどこかで必ず出会っていたと思うのです。そして、やはり私はすぐにあなたに恋をするのだと……」 「シド……」 「こんなに強烈に欲しいと感じた人はいません。一目見れば私は何度でもあなたに恋をします。これはきっと運命だと思うのです」  夕日に照らされたシドヴィスの顔は赤く染まっていた。レオンもまた夕日に照らされていたが、頬の色は夕日よりもずっと赤かった。 「ちゃんと言えてなかったので、今日言おうと決めていました。レオン、私と結婚してください。私と生涯を共に……、この先の人生のあなたを全て私にください。体は老いていくとしても、この気持ちはずっと変わりません。私の心はずっとレオンのものです」  ぽろりとこぼれ落ちたのは悲しみではなく、喜びの涙だった。  頬を伝って顎から滴り落ちる寸前でそれをシドヴィスの指が止めた。  涙の一滴さえ愛してくれる人はシドヴィス以外に考えられないと思った。 「はい……」  シドヴィスがたくさん言葉をくれたので、レオンもたくさん返したかったが、なんとか震える声で出てきたのはそれだけだった。  しかし、シドヴィスはその言葉を待っていたようで、目を細めて嬉しいと言った後、レオンをぎゅっと抱きしめた。  地平線に夕日は沈んでいき、やがて空はオレンジのドレスから黒い装いに変わるだろう。  抱き合う二人の世界もまた、新しい色に変わっていくだろう。  二つの孤独な魂は変わることのない深い愛で結ばれた。  一人の足跡は二人の足跡になり、いつかもっとたくさんの足跡に変わるのだろうか。  まだ歩きだしたばかりの二人の姿を、そっと夜の闇が包んでいったが、暗闇の中でも二人の愛の輝きは消えることがなかった。  □男だって愛されたい□おわり□
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