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【1・勝負球は変化球よ!】
【1・勝負球は変化球よ!】
バックスクリーンの電光掲示板にともる赤ランプは二つ。
七回裏、私たち白由学園の攻撃。六対五。その差一点。
同点のランナーは二塁。一番バッターの彼女の足であれば、ワンヒットで……。
打席の安子は並行カウントからファールで粘り―――フルカウント。
四番の長距離砲。今まで何度も窮地を救ったキャプテン。
祈る必要などないとわかっていても、拳は自然と握られていた。
いつも通り、集中力のみなぎっている彼女の横顔。
相対する長身のピッチャーも、胸を大きく上下させ、落ち着きを引き寄せようとしている。
完投目前。
いくらツーアウトとはいえ、最終回、サヨナラのランナーは出したくないはず。
落とす変化球で勝負。―――同業の私にはわかる。むろん、ずっとバッテリーを組んできた安子も読んでいるに違いない。
セットポジション。
ランナーのリードは大きい。が、牽制の気配はない。
バッター勝負。
速球派の長い腕がしなり、白球はキャッチャーミットへと走った。
安子の半身が弧を描き始める。
確実にフェンスオ―バ―を狙っているスイング。
そして、
もってけっ!
芯で捉えた金属音が、球場を包んだ―――。
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