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「でも、いつ死ぬかわからない状態になれば、毎度下校後、こうのんびり歩いてはいられない」
「え、あ……そりゃそうよね」
―――ということは、現時点では、病状、切羽詰まってるってわけじゃないのか……な?
「なにしろ、霊魂の実体からの分離を目にすることができるやもしれない、貴重なチャンス。逃せば一生後悔する」
「え……ああ……」
それからしばし、雨の音しかなくなったふたりの空間に居心地の悪さを感じた私は、なにげなさを装って向けた。
「夏休みもオカ研あるんだ」
傘の下の彼女は、同じ制服姿でいる。
「一応。ほとんど個人活動だけど」
棒読みのように答えた彼女が、オカルト研究会の会長を務めていることは知っている。
自由な校風の本学園なので、そんな会(といっては失礼だけど)も公認されていた。
そこでいいチャンスだと思い、以前から多少は気になっていたその研究内容について訊いてみた。
「主に、ミステリースポットといわれている場所の、真偽やいわれをたしかめたり、心霊写真撮影会をもよおしたり、未解決不可解事件の真相を究明したり―――まあ、オカルトといっていいようなことはなんでもやる」
これといって、嬉しそうでもうっとうしそうでもなく解説した彼女は、ただそれらを全国的に行うことは不可能であるから、白由が丘近辺に絞って行っている。それでも案件には事欠かない。と添えもした。
そして唐突に、感情の読めない細面を私によこすと、
「この緑道はあまり使わないほうがいい。特に暗くなってからは」
「え……ああ、痴漢が出るから?」
「それもあるけど……地縛霊が彷徨っているから」
長髪の和風美人は、前方に向き直って答えた。
「……地縛霊?」
「感じない?」
間髪なく問われ、「地縛霊は……」首をふった。
「素人には無理か……」
息混じりでひとりつぶやくと、彼女はつと立ちどまり、右手を指差した。
「元はこれが原因」
そこには二、三〇m続いているコンクリの塀。その向うには、数々の卒塔婆の先端が覗いている。―――恋乞寺の墓地。
「恋乞寺の名からきているこの道の一部は、本来は墓地だったの。一部といっても結構広い範囲だけど。
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