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「今日は変化球中心にいってみようよ。精度あげていかないと上じゃ通じないし」
初回、打席のまわってくる確率が高い四番は、防具を外しながら弾む声をよこした。
「そんで、卒業までにもう一つ二つ、球種増やさない? そのほうがやっぱり有利だし、ほかから入ってくるピッチャーに差つけときたいじゃない」
「……うん……」
「もしかして、まだ悩んでるの?」
眉間にしわを寄せたまる顔が覗き込んできた。
「たかだか一失点しただけじゃない。何度もいってるでしょ、急遽のリリーフじゃ上出来だって」
はげます声は、先日の全国大会のことをいっている。
しかし、私には“たかだかの一失点”ではなかった。決め球を三人の打者にことごとく弾き返されたのだから……。
それはサインを出した安子もわかっているはず……。
自分に能力はあるのか?―――ここ数日わいている、顔をそむけたくなる疑問。
上にあがって、はたして通用する……?
彼女のいうように、他校からいいピッチャーは多数入ってくる。今までのようなエースというポジションどころか、一軍入りも無理になるんじゃ……?
それで私は我慢できる……?
高校時代で、見切りをつけたほうが……。
「だからそんな悩みは今すぐ捨てて、上へいってもバッテリー組んで、より頑張ろうよ!」
一段強まった言葉が、瞬時ふけっていた思索から意識を引き戻した。
「……うん……」
了解とはほど遠い音色を聞いて、安子はまたなにかをいいかけようとしたけど、
「あの……」
仁美の声がそれを妨げた。
「写真部が練習後、写真撮らせてくれっていってきてるんだけど……」
ほかの部員たちの耳をはばかるような声音に、
「うちを?」
安子が喜色を返す。
「いや……宝理さん」
おどおどとした口調でTシャツの裾を引っ張ったのは、安子の落胆を気にしたからではなく、これが仁美の常日頃の態度。
一、三塁側のフェンスの外に、三脚に載せたカメラを構えている男子生徒が数人いたのは知っていた。彼らの腕に巻かれた腕章が、新聞部や写真部の証だということも。
練習を見学している制服姿の生徒は、ほかにもちらほら見えた。おそらく自習目的で学園にきて、息抜きに、または帰途につく前に、ちょこっと眺めよう、といったところなのだろう。
「この間きたじゃない」
と、私に視線を向けられた仁美は、
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