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「あ、あれは新聞部で……。できればユニフォーム姿と制服姿を撮りたいって……」
なんでも静と動を表現するためらしく、撮影した写真は、秋の文化祭での展示作品になるという。
「奈世だけ~?」
「宝理さんを、野球部の代表としてって……」
嫌みったらしくぶつけられた仁美はそう答えると、まるで自分に非があるかのごとく、短髪に載せたチームキャップを垂らした。
そんな姿を眺めながら―――、
三年間きつい運動部に所属していて、今もってどうしてこうも自信なげで弱々しいんだろう? いつまでこの調子なんだろう? やっぱり人の性質って、一生変わらないものなのかしら?
―――と、疑問をわかせていた間を逡巡のそれととったのか、あげた顔はいった。
「学園側にも許可をとっているからっていってたけど、一応、本当かどうか確認してこようか?」
「え……あ、まさかそんな嘘、堂々とつかないでしょ。確認されたらすぐばれるんだから」
だからOK。との私の返事と頷きを受けとると、仁美はなぜか自分が了承を得たかのようにほっと表情を緩め、
「じゃ、伝えてくる」
痩せぎすの背を向けた。
そのとき、
「仁美ー! 動画撮影の準備、早くやれ―!」
監督の怒鳴り声が届いた。
「あ、あ、そうだった」
あせったようにつぶやいた仁美へ、ひやかしの声や笑いが飛ぶ。
仁美、早く!
頑張れ敏腕マネージャー!
こないだみたいに、レックボタン押し忘れんなよ~!
のめるようにして陽射しの中へ出た仁美だったが、ふと立ちどまると、こわばった笑顔をふり向けていった。
こ、紅白戦、がんばって―――。
「相変わらず要領悪いのよね~。動画撮影は毎回決まってることなんだから、まずそっちの準備優先にして、ほかの部の依頼伝えにくるのなんて後まわしにすればいいじゃない。練習終わってからでもいいことだし」
バックネット裏へ駆けていくTシャツ姿を目で追いながらいった安子に、私は表情を緩ませた。非難めいた台詞の裏には、モデルになれなかった不満が隠れている……と踏んだから。
「だけどあの子もよく持ったわね。すぐやめると思ったんだけど」
ベンチに無造作に置いてあった広告の刷られた団扇を仰ぎながら、彼女は続けた。
「体力もそうないし、頭の回転もスローリーだし」
「まあ……ね」
曖昧な相槌を打ち、今まで幾度か浮かべた疑問をまたわかせた。
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