【2・実力よりルックスよね】

5/6

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 ―――どうしてマネージャーなんて志望したんだろう?   野球が好きだから、とは聞いたけど、プロ野球を観ている気配もないし、細かいルールを覚えたのも、スコアブックをまともに書けるようになったのも、入部後相当経ってからだった……。 「まあ、一生懸命だから憎めないけど」  ため息一つついていった隣へ、同意の頷きを見せた。  仁美のほかに、一、二年生ひとりずつマネージャーはいた。激務の裏方に自ら志願してくるほどであるから、野球好きであるのはしかりで、彼女らは入部時点でスコアブックもしっかり書けた。だから紅白戦では、毎度両軍にわかれスコアラーを担う。  そのひとりをベンチの隅に一瞥したあと、 「やっぱり可愛いってところが一番の要因なのよね~。チームを背負(しょ)って立つエースだからってこともあるだろうけどさ」  と、なんとも今の流れにそぐわない発言が、横で続いた。  なので、「え、なに?」寄せた眉根を横顔へ向けた。 「新聞部や写真部の取材対象が奈世だけだってこと」  あ、やっぱり不満持ってたんだね。 「普通であれば、キャプテンにいくと思うんだけどね~」 「安子だってコメント求められたじゃない、新聞部には」 「聞かれる量は奈世より断然少なかった。それに写真は撮られなかった」  彼女はすました顔をグランドへ送っているけど、団扇を仰ぐその手は激しくなっている。 「結局どこの世界でも、立場よりルックスなのよね~」 「そんなことないわよ。私なんか日焼け気にしてないから年がら年中色黒だし、髪は男子みたいにこんな短いし、胸ないし。女らしいところ皆無よ」 「そういうボーイッシュなところがかえってうけるのよ」  とんがらせた唇が、諭すように返してきた。 「現に網張(あみはり)くんのハート、見事に打ち抜いたじゃない」 「やめてよ、そんなんじゃないんだから」  少し声を大にして彼女を睨んだ。  しかしそんな反論、意に介したふうもなく、 「うちももう少しあごがしゅっとしていて、手足細くて、胴体もスリムだったらな~」  と、張りだし気味のお腹をさすった彼女だった。  が、 「可愛いで思いだした」  唐突に語調を変えると、真顔をふり向かせた。 「痴漢に遭ったの、ダンス部の埴田(はねた)さんだったんだって」 「……そう」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加