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―――どうしてマネージャーなんて志望したんだろう?
野球が好きだから、とは聞いたけど、プロ野球を観ている気配もないし、細かいルールを覚えたのも、スコアブックをまともに書けるようになったのも、入部後相当経ってからだった……。
「まあ、一生懸命だから憎めないけど」
ため息一つついていった隣へ、同意の頷きを見せた。
仁美のほかに、一、二年生ひとりずつマネージャーはいた。激務の裏方に自ら志願してくるほどであるから、野球好きであるのはしかりで、彼女らは入部時点でスコアブックもしっかり書けた。だから紅白戦では、毎度両軍にわかれスコアラーを担う。
そのひとりをベンチの隅に一瞥したあと、
「やっぱり可愛いってところが一番の要因なのよね~。チームを背負って立つエースだからってこともあるだろうけどさ」
と、なんとも今の流れにそぐわない発言が、横で続いた。
なので、「え、なに?」寄せた眉根を横顔へ向けた。
「新聞部や写真部の取材対象が奈世だけだってこと」
あ、やっぱり不満持ってたんだね。
「普通であれば、キャプテンにいくと思うんだけどね~」
「安子だってコメント求められたじゃない、新聞部には」
「聞かれる量は奈世より断然少なかった。それに写真は撮られなかった」
彼女はすました顔をグランドへ送っているけど、団扇を仰ぐその手は激しくなっている。
「結局どこの世界でも、立場よりルックスなのよね~」
「そんなことないわよ。私なんか日焼け気にしてないから年がら年中色黒だし、髪は男子みたいにこんな短いし、胸ないし。女らしいところ皆無よ」
「そういうボーイッシュなところがかえってうけるのよ」
とんがらせた唇が、諭すように返してきた。
「現に網張くんのハート、見事に打ち抜いたじゃない」
「やめてよ、そんなんじゃないんだから」
少し声を大にして彼女を睨んだ。
しかしそんな反論、意に介したふうもなく、
「うちももう少しあごがしゅっとしていて、手足細くて、胴体もスリムだったらな~」
と、張りだし気味のお腹をさすった彼女だった。
が、
「可愛いで思いだした」
唐突に語調を変えると、真顔をふり向かせた。
「痴漢に遭ったの、ダンス部の埴田さんだったんだって」
「……そう」
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