マリトッツォ売りの少女

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 深々と雪が降る街角で、一人の貧しい少女がマリトッツォを売っていました。 「マリトッツォはいかが? マリトッツォはいかが?」  しかし今夜はクリスマス。少女の前を行き交う人々は、マリトッツォ売りの少女には目もくれません。  というのも、少女の前を通る人々は、家族とクリスマスをお祝いしようと家路を急いでいるようで、皆、クリスマスケーキを手にしていたのです。ただの甘いパンには興味が出るはずもありません。  それでもマリトッツォ売りの少女はマリトッツォ売りをやめるわけにはいきませんでした。  マリトッツォがひとつでも売れ残るとマリトッツォ売りの親方はマリトッツォ売りの少女にひどい罰を与えるのです。 「マリトッツォはいかが? マリトッツォはいかが?」  マリトッツォでいっぱいのバスケットを小脇に抱え、白い息を吐きながら、マリトッツォ売りの少女は道行く人に必死に声を掛けました。しかし、いくら声を掛けても誰も見向きもしてくれません。  雪は静かに降り続きます。日が落ちて夜が進むにつれ、外は寒さを増していきます。少女のマリトッツォを持つ手も、かじかんで感覚がなくなってきました。  少女は一旦マリトッツォを置いて、両手をこすり合わせたり、ほーっと息を吹きかけたりして手を暖めようとしました。それでも手はかじかむばかりでした。 「もうダメ。どこかに手袋の代わりになるようなものはないかしら?」
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