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「──いいよ、」
「……」
「好きにすれば、良いよ」
「……」
「それからまた、ひとりで泣くんでしょう」
「……」
「誰にも頼らないで、言いたいこと何一つ言わずに、またそうやって逃げていくんでしょう」
離れていく唇、冷たさが戻った瞳を逃がさないように、今度は私が捕らえていた。
彼に冷たい言葉を吐けるのは、あの頃を知っている私だけでありたかった。
今だけは、わたしに、すべてを見せて欲しかった。
「タバコだって吸えばいいし、隠さなくていいよ」
「……」
「“誰”のこと考えてるのか知らないけど、別にいいよ」
「……」
「好きにしなよ、わたしも、好きなようにするから」
「……清原、」
「なに?」
「──相変わらず、厄介だな」
手を引かれて、先を歩く背中を追っていた。
冷たい手のひら。
たぶん半分はこんなにも寒い冬の夜のせいで、あと半分くらいは、こうなってしまった彼の冷え切ってしまったこころのせいだ。
手のひらが冷たい人は、心があたたかいなんて、絶対嘘だ。
でも本当の彼は、こころの冷めた人なんかじゃないってわかってるから、信じているんだ。
誰もいない住宅街を二人で歩いていた。
思えばこの道を、4年前に二人で歩いたことはあっただろうか。
なんて。
これから何をするのか、そんなものわかっている。
覚悟はできていた、煽ったのは自分だ。
でも、誰にだってこうすると思わないでほしい。
わたしは、“過去”を清算したいだけだって、言い聞かせることにする。
わたしが好きだった4年前の『流川瑞月』とは違うって、身をもって知りたい、それだけだ。
それから、幻滅させてほしい。
そしたらもう二度と、いまのきみに、近づいたりなんてしなから、
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