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「なに。疲れた?」 「つ、かれた」 「よくそんなんで慰めてあげるなんて大口叩けたな」 「…………」 「清原は昔から言い返せなくなったら唇が右に動く」 「……なにそれ、知らないんだけど」 「じゃあ無意識なんじゃねえの」 “昔から”っていうのは、狡い。 ちゃんと私のことを覚えているって、そう思わせるのが狡い。 とっくに調子の戻った男が、わたしを煽るように見下ろしていた。 果てた私のことを相変わらず冷めた目で見ている。 それを破顔させたかった、 少しでも、不意をつきたかった。 やられてばっかりじゃ悔しいのは、こう見えて負けず嫌いな性格が先行してしまうからだ。 どうしても、流川が困って、怒って、感情をこっちに向けてしまえばいいって思っているのだ。 「……だって、」 「なに?」 「流川、ほんとーは、慰められたくなかったくせに」 「……」 「誰にも干渉されたくなくて、ほっといてほしかったんでしょ?」 「……」 「だから、ついてきたんだよ」 「……」 「流川、ごめんけどぜーんぶ、わたしの思うツボだよ」 ほっといてほしい、 そんな顔をしていたのが悪いんだ。 これ以上かかわらないで、と言われるような線引きをされるから、気になってしまうんだ。 こればっかりは、どうしてなのか、行動が先に出てしまうことの正解なんて誰もわからない。 「でも、失敗かも」 「……」 「流川が、本当は未練たらたらな男とか気づきたくなかったし」 「……ちげえよ」 「嘘吐き、流川、不器用だから、絶対引きずってるんでしょ」 「…ちがう、」 「逃げてるんでしょ、そーやって、言い訳して、否定して、好きでもない女子抱いて、」 「……」 「流川は、カワイソウな人だよ」
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