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「……流川、?」
「──ッ、」
誰にもばれたくなかったから、吐き出していたんだ。
隠すために、煙に包まれていたんだ。
見てはいけないものを見てしまった、知らない振りをしなければならなかった。
そう思ったのに、行動はちぐはぐだった。
街灯も人通りも少ない住宅街だった。
住み慣れた、わたしがずっと生活している場所だった。
三日月が空に上向きに浮いていた。
秋が終わりを告げるように、空は澄んでいて、オリオン座が映し出されていた。
そんな、綺麗な夜空に吐き出された煙に、彼の濡れた頬は隠された。
隠されたんじゃなくて、隠したかったんだと、それに気づいたのはその視線がわたしを捉えたあとだった。
わたしを見つけた瞳が、くら、と揺れる。
そこに吸い込まれるように視線を奪われて、
わたしが知っている『流川瑞月』はそこにはいないと思った。
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