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───…・ “今”の彼の印象はあまりいいものではなかった。 あの頃は真っ黒でなんのアレンジもされていないストレートは、今ではグレーアッシュになって毛先がくるくると遊ばれている。 キャンパスの中で見かける彼は、中学のころとはまるで別人だと思っていた。 ──まるで表情の変わらない、機械みたい。 決まって彼の話をする誰かは、そう言う。 もともと自分から率先して話すタイプでもなければ、口数が多いわけでもない。 話しかけられても、彼はなんの含みも色もない声で返事をする。 誘われたら断らない、それをいいことに流川瑞月のタイプでは絶対にないであろう女の子でさえ隣に並んでいるのを見たことがある。 誰でもいいのだ、彼は。 ただそばにいてくれる誰かがいればいいと、そういう風にも捉えられたと思う。 ひとことで言えば最低なオトコに成り下がっていた。 3年ぶりに彼を見て、わたしは酷くがっかりしたのを覚えている。 中学生の流川瑞月に戻してほしい。 あのころの彼に、どうしたら会えるのだろうか。 もう二度と、あの頃の流川瑞月には会えないのだろうか。 無口はただの不器用だって知っている。 仲良くなれば表情が豊かになるところも。 たった今、わたしの目の前で涙を落とした彼には、わたしが知っている過去でも現在(いま)でもない、そう思った。
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