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彼の泣き顔を見てしまったら、声をかけずにいられなかった。
簡単に崩れない表情が、誰にも見えないところで壊されているから、手を伸ばしたくなってしまった。
こんなにも綺麗に泣くのか、整っている顔が歪められるそれに、思わず引き寄せられていたんだ。
「…別に、」
「……」
「理由なんて、ないよ」
「…嘘吐き」
「俺は、元からこうだよ」
「…嘘だよ、」
だってわたしは、あなたが不器用でどうしようもない男だってこと知ってる。
人づきあいが苦手で、自分の気持ちを表に出すことが苦手で、全部言わずに逃げようとするところも。
下手くそな愛想笑いをするくらいならそうやって、黙って逃げようとするところとか。
自分の思い通りにならなかったら、面白くなさそうな顔をすることも。
涙はもう、残っていなかった。
簡単に枯れてしまっていた、きっとわたしが、見つけてしまったからだ。
わたしを見下ろす瞳が一瞬で冷たくなる。
ああ、この表情。
わたしが知らない、流川瑞月だった。
線引きをされたようだ。
嘘だと、とっさに吐いた私の言葉に、簡単に表情は一変する。
「…じゃあさ、」
「うん、」
「―――理由があったら、何してくれんの?」
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