承その1

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承その1

もし神様という存在がいるならば、きっと性格がとてつもなく悪いに違いない。  フレイムバスターが通う大学へ行こうと医務室を飛び出した俺は、医者であり同期の風斗から、アドバイスという名の文字通りドクターストップをくらい、寄り道をしなければいけなくなった。というのも、ヤツに顔が割れている以上、そのまま潜入すれば騒ぎになってしまうから、だそうだ。  たしかにその通りだ、もしそうなったら、多分どこか人通りの少ないところに連れて行かれて、そこからサンドバックからの出禁のコンボだろう。ミッションを遂行するためには、俺がヴィランNo.038であることに決して気付かれてはいけないのだ。  だからまず俺に課せられたのは、絶対にバレないように変装することだった。  パーティグッズだとリアリティがないので、実際に専門店へ行って購入する。メガネ、メイク道具、カツラ、大学生っぽい服や持ち物。スマホのカバーも新調した。ちょっと出費は痛いが、弟に譲ればその後も使ってくれるだろう。  服は試着したまま店を出る。あとは適当な公衆トイレに入ってメイクだ。目元に2つ、口元に1つ、アイライナーでホクロを書いた。そして黒縁メガネをかけ、カツラを被れば、どこにでもいる大学生に早変わり。  そうしてトイレの鏡に写った自分はまるで別人のようで、つい鏡に触れてしまう。向こうの人間も手を重ねてきて、これが本当に自分の姿なのだとやっと理解した。  カツラは普段の額を出している髪型からは程遠い、前髪が重めのものを選んだのだ。まずヴィランNo.38のイメージとは結びつかないだろう。  その上、人間とはメガネやホクロなどの外見的な特徴があれば、そこに目がいってしまうものだ。その印象がついてしまえば、きっと俺の素顔はぼんやりとしか覚えられないはずだ。  まあ、色々御託は並べたが、俺の顔に特徴がないから、なにかアイテムをつければ、他人の印象にも残りにくくなるってことだ。少しだけこの顔に生まれたことを感謝した。  こうしてはじめての変装で自信を持った俺は、意気揚々と大学へ向かったのだ。  だが、現実はそう甘くはない。俺は大学の門の前で膝から崩れ落ちることになる。
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