そう上手くはいかない

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 レンティーヌが出した提案は、レンティーヌが信頼している魔術師をマルケイアへ派遣する、というものだった。 「わたくしが信頼する水の魔術師を全員とはさすがに言えませんが、陛下に奏上して5人……が無理でも3人はマルケイア国へ向かわせる、という事でわたくしの手助けにして貰えないかしら」  提案という形だが、伺うのではなく、確定の物言いはドラッド伯が拒否をすれば、レンティーヌどころかフレーティア王家からも見放されるようなものだ。マルケイアの水が力を持つ、と言われてもそれが解るのは魔術師……つまり魔力を持つ者のみ。残念ながら、数十年から数百年前のマルケイアならいざ知らず、現在のマルケイア国に魔術師も魔力持ちも居ない。  そして、ドラッド伯が知る限り、フレーティア王国とソルリア国くらいしか魔術師は居ないと思われる。そして、ソルリア国は魔術大国として有名だが、名前だけが噂されているような国で、ドラッド伯自身は、そんな国は存在しないのではないか、と疑っている。いや、魔術師の存在を否定しているわけではない。ただ、あまりにもソルリア国の実態が掴めないので、疑っているというところ。  つまり、そんな存在するのかしないのか判らないような国を頼る事など出来はしないし、仮に実在していてもその伝手がない。  となれば、実質、このフレーティア王国の魔術師を頼る以外、自国の水を復活させる術が無い。抑々、自国の水に力が有る、と言い出したのはフレーティア王国の魔術師だし、同じく魔術師で有るレンティーヌ。残念ながら魔力持ちの居ないマルケイアの人間は誰一人として、水に力が有るなどとは判らなかった。そういった意味でもフレーティア王国から魔術師を派遣して貰える事は有難い事、この上ない。  要するに、レンティーヌからの提案を断る理由などドラッド伯には見当たらなかった。 「是非、宜しくお願い致します」 「承りました。早速陛下に奏上すると共に、最低でも3人をマルケイア王国へ向かわせますから、調査員として選出致します。ドラッド伯殿の帰国に合わせて彼らを向かわせましょう。それまで伯はゆっくりとお休み下さい」  ニコリと笑んだレンティーヌは、控えていた侍女の一人にドラッド伯を休ませるように部屋への案内を頼む。その際、護衛騎士にも共に向かうよう告げて、もう一人の侍女に、陛下への先触れを頼むと、ふぅ……と溜め息を吐き出した。侍女二人と室内に居た護衛騎士は、おそらくフレーティア国王が差し向けた監視役兼暗殺者だろう。  レンティーヌとドラッド伯の会話を一言一句間違いのないように、国王へ報告すると共に、ドラッド伯が無体を敷くなり、威圧してレンティーヌに対して、無理に言う事を聞かせようとしたり……といった行動に出ていれば即刻、ドラッド伯の頸と胴体は切り離されていたはずだ。  レンティーヌ・テーランスという女性は、それだけ価値の高い令嬢という事。  レンティーヌ自身は望んでいないが、おそらくレンティーヌとの婚約を結果的に破談にしてしまった家の末路など、レンティーヌは考えたくも無かった。まぁレンティーヌの予想通りそれなりの目に遭わせさせられているのだが。
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