身代わりのお見合い話

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 その前国王は病に罹ってから直ぐに悪化し王子達、側妃達の争いを止めようにも止める事も叶わぬまま病死。正妃である王妃は子を産めなかったためどれだけマルケイア王国に尽くしていても貴族達からも側妃や王子達からも陰で嘲笑され発言権などまるでないものだった。  全てが片付いてからホマエルを国王に認めて自害をしてしまった。ホマエルは王妃を母と慕っていたが王妃は生きる気力が無かったのである。ちなみに第五王子のホマエルだけが王位継承争いに入らなかったのは、彼だけが前国王の子達の中で王妃付き侍女に手を付けられた子だったからだ。母は側妃達の虐めに耐えかねて病死し当人は使用人の子と嘲笑われて生きていた。王妃が庇ってくれたから生きていられたのである。  密命を帯びていた男爵は前国王の遺志は王太子にあった、とホマエルに告げた。だが男爵はホマエルを簒奪者と詰る事も無かった。  ホマエルが止めねばマルケイア王国が消えていたからである。小心者の伯爵・密命を帯びていた男爵はホマエルを国王と認め恭順した。残りの男爵家はホマエルの実母の実家だった。  王妃付きの侍女として働いていたホマエルの実母は婚約者がいた。政略的なものであったが仲は悪くなかった。相手は子爵家で後々子爵夫人になるべく王妃付きの侍女として行儀見習いに出ていた時に前国王のお手つきになってしまったのだった。  ホマエルの祖父にあたる男爵は国王のお手つきになってしまった娘の未来を思って涙を流したという。早くに病死で母を失い男手一つで育てた可愛い娘だが夫人の心得等分からない事を教えてもらえるように親戚であった侯爵令嬢の侍女となり……そのまま彼女が前国王の王妃になった時も時間の許す限りは、という条件で王妃付き侍女になったのである。それがまさか裏目に出るとは露程も思わずに。  とはいえ、もうどうしようもない事だったが結局側妃達の虐めに耐え切れず病に罹った娘を不幸にした前国王の事を男爵は密かに恨んでいた。だが孫が玉座に就くとは思わなかったためその心情はかなり複雑だろう。複雑だが可愛い娘の遺児のためにホマエルに恭順の意を示した。  こうしてホマエルは滅亡寸前のマルケイア王国の国王となった。近隣諸国やフレーティア王国は内乱である以上何もする事は出来なかった。  大陸間法という法には内乱の国から助けを求められた時以外介入不可という一文がある。これは内乱に便乗して他国が乗っ取る事を阻止するための法であった。  国のトップに位置する者達が他国に助けを求めて来ない限り手が出せなかったのである。法に引っかからない手助けと言えば逃げてきた国民達を受け入れるくらいのものだった。ちなみにこの大陸間法を破るとそれ相応の罰が与えられると言われている。魔術師が居るフレーティア王国がそれを遵守している以上近隣諸国も遵守しなくてはならない。フレーティア王国は500年以上は続く大国で滅多な事では揺るがない基盤のある彼の国がそのような慎重な対応を取っている以上、大陸間法は守らねばならない法だとどの国も思うしかなかった。  そうして他国は何もする事が出来ないまま収まった内乱。新たな国王は弱冠15歳。主な貴族家もおらず支える力どころか滅亡寸前。そんなマルケイア王国を支援しようと真っ先に名乗りを上げたのはやはりフレーティア王国だった。ホマエルも一応王子であり王妃に育てられたため大陸間法も知っていた。だから内乱に手を差し伸べられなかった近隣諸国を何とも思わない。それはフレーティア王国に対しても。ただ受けられる支援は遠慮なく受け入れる事にした。合理的な判断を下せるホマエルは間違いなく国王に相応しい人物だった。
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