身代わりのお見合い話

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 それから10年。彼は休む暇もなく荒れ果てた国を自らの手で整備していく。当たり前だ。何しろ人手なんて圧倒的に足りないのだから。彼が出来る事をやっていくしかない。そうして10年でなんとか王都が甦った所だった。それでもまだ王都止まりなのだ。如何にマルケイア王国が危なかったのか判る。王都復興と同時にホマエルは気になっていた事を調べた。そちらの結果は国王の位に就いてたった1年で分かった。  マルケイア王国にしかない水の存在である。何処にでも湧いているのではなく、湧く場所は王都を含めて7ヶ所。何故この水が湧くのか分からないし何故他の土地に湧かないのかも知らない。ただ前王妃経由で聞いた所によればフレーティア王国の使者が魔術師を同伴していてその魔術師曰く神聖な水としか言えない。とのことだった。  当時、魔術師は信じられないが「神の奇跡だと言われてもおかしくない」と呟いたそうだ。魔術師は神を信じていないらしいがその居るか居ないか不明な神のお陰でマルケイア王国は国力を貯められていた。それは確かだった。だからこそ内乱から10年が経ち、7ヶ所の水が内乱など無かったかのように王都復興の合間に実際にこんこんと湧いていたのを目にしたホマエルは、これで国が助かると思った。彼も神など信じていないがそれでも枯れていない水を見てしまえば神の奇跡とやらを目の当たりにしている気分だった。  ところで。  王都復興を機に一段落したところへ宰相から進言があった。ちなみに宰相は前国王の密命を帯びていた男爵で財務担当は小心者の伯爵だ。小心者な上に殆ど金の無い国だから懐を温める事など出来ないだろう、という判断だったがこの伯爵は数字に強かったので結果的に良い判断だった。そしてマルケイア王国復興担当兼その他諸々の雑務担当は申し訳ないがホマエルの祖父の息子……つまりホマエルの伯父にやってもらっていた。他の貴族家が悉く無いのだからこの3家も否を唱えている場合ではなかったのである。  その宰相からの進言。それは妃の事。 「そろそろ正妃でも側妃でも公妾でも良いので娶って下さい!」 「はぁ⁉︎ 国の復興の方が先だ!」 「莫迦ですか! 王都の復興だけでも10年かかってるんですよ! 国の復興待ってたらアンタヨボヨボのジジイでしょうが!」 「それを言ったらお前は俺よりも20以上も上だから棺桶に片足を突っ込んでるだろうがっ!」 「そうですよっ! だからその前に結婚しろって言ってんですよ! この莫迦!」 「仮にも国王に向かってバカはないだろう⁉︎」 「アンタ自分で国王って言ってんなら国王の義務を放棄するんじゃないっ!」 「跡継ぎってやつか⁉︎」 「そうですよ! アンタに何かあったら誰がこの国を守るんです⁉︎」 「うっ……それはそうだが……」  ちなみにこの遣り取りは城ではない。王城? そんなものはあの内乱でとっくに壊されている。では何処なのか? 残っていた3家が金をかき集めて建てたちょっとした屋敷である。此処を政治の中枢にしていた。つまり財務担当の伯爵も雑務全般担当の伯父男爵も此処にいる。ついでに言えば彼らの家族も。残った国民達の家の方が寧ろ良い住まいだろう。近隣諸国からの支援金で建てているので。
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