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「それは……なかなか難しい、問題ですね」
かなりの沈黙の後で、ポツリとレンティーヌが溢したので、危うくドラッド伯自身が、何の話なのか訊ね返すところだった。それくらい静寂が室内を支配し、話の内容すら忘れかけているくらいの静寂さだった。
「なかなか難しい問題、というのがどれほど難しいのか、魔法についてさっぱり解らないので教えて頂けますと助かるのですが」
ドラッド伯は軽く口にしたが、レンティーヌは益々眉間に皺を寄せた。
「魔術に関しては魔術師が一番詳しいのですが。もしかすると我が国の魔術師ですら解らないかもしれません」
フレーティア王国の魔術師でも解らない事だと、どういう事になるのか、ドラッド伯は想像も付かない。
「と言うと?」
「魔術大国・ソルリアの魔術師を頼らないとならない、かもしれません。ですが、それも難しいでしょう。フレーティア王国の水を操る魔術師が携わる必要は確実に有ります」
レンティーヌも水を操る魔術師の一人では有るが、自分より格上の魔術師も存在する事を知っている。ただ。多分、1人や2人の魔術師では、あの国の清き水を蘇らせるのは難しいだろう。聖なる水とも言えるあの水は、化粧品だけでなく、抑、飲み水としてもかなり質が良い。あれだけ良質な水ならば、病すらも退けられると、レンティーヌは思う。
「正直なところ、わたくし自身が自分の事で精一杯では有るものの、一方でマルケイア王国の復興を放置しよう、とは思っておりません」
ただ、支援金ならば既に送っているし、人手もある程度はフレーティア王国を含む周辺国が手を差し伸べているから、そういった支援を望むのであれば、レンティーヌは断って誰かを代わりに行かせれば良い話。
しかし。
こと、あの国の力を持つ水に関しては、支援金や人手の問題では無い。とはいえ、あの水を放置しておく方が勿体ない。しかも、魔術師でないと水を蘇らせるなど難しい。
レンティーヌはテーランス公爵家の跡取り令嬢だが、魔術師としての側面も有る。
その魔術師としての立場で考えれば、放置しておく気にはなれない。
レンティーヌ自身がとても、とても難しい立場に追い込まれていた。
「では、テーランス公爵令嬢様が、先頭切って復興に力を入れて下さる、と?」
放置する気が無いのなら、そういう事になる、とドラッド伯は希望を見出して若干声が上擦る。
だが、それにはレンティーヌは答えない。
気軽にマルケイア王国に向かう、などと言えるものでもない。
「一つ、提案がございます」
レンティーヌは黙考して自分が再びマルケイア王国の地に降り立つことについて思いを馳せていた。
そうして一つの考えに至ったのである。
「提案、ですか」
ドラッド伯は軽く首を捻った。
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