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「恐れながら、陛下」
「皆まで言うな。言いたいことは解る。確かに現在は子が生まれる状況に非ず。だが、逆に問うが、そなた、自分の目で確認して来たのだろう? 一年か二年くらいで復興出来るような現状だったか?」
レンティーヌが現在のところは誰も妊娠しているわけではない、と奏上しようとして、逆にそんな風に問われハッとした。確かに数年程度魔術師を送り込めば済むような状態ではない。
「いえ。確かに簡単では有りません」
そう上手くはいかないのが、あの国の現状だった。
「そなたの見立てでは?」
「水を復活させるだけに特化しても……五年は必要か、と」
「それだけ長期に渡り三人もの魔術師を差し出す事は不可能」
レンティーヌは自身の見通しの甘さに唇を噛んだ。気安く請け負った事の弊害である。
「では、陛下。わたくしに行かせてはもらえませんか」
気安く請け負ったその代償は払わねばならないので有れば、レンティーヌ自身が言い出した以上、レンティーヌがその責を負う必要がある。
「そなたが?」
「気安く請け負った手前、やっぱり無理とは言えぬのは陛下もご承知のはず。わたくしと……リビアリーを」
レンティーヌも引くに引けない状況である。
「リビアリーか。ううむ……確かにあやつは水の魔術の使い手であるし、未婚で男だから結婚については後回しにしても構わぬが……。おまけに魔術研究ならばいくらでも嬉々として行うから打ってつけだが……」
「わたくしは確かにテーランス公爵家の跡取りですが、お父様はご健在ですし、わたくしに万が一の事が有った時のために、跡取り教育を受けている従兄弟もおりますから、暫し不在にしていてもお父様を支えてもらえるか、と」
今代のテーランス公爵家当主には、レンティーヌとネミルージュの姉妹が生まれただけだった。男児が跡取りでも、男女問わず第一子が跡取りでもどちらでも良いため、レンティーヌが跡取りとして届けられているが、スペアという考え方は何処の貴族家でも当たり前であり、レンティーヌのスペアが、その従兄弟という事である。ネミルージュがスペアとして教育を受け始めて少しした頃、ルータリアン侯爵の嫡男・ラルゴに見初められて婚約したので、ネミルージュはスペアから外され、レンティーヌの従兄弟がスペアの役割を与えられた。
尚、レンティーヌのスペアとなる従兄弟は、ネミルージュと同い年のソウジュという男児である。
「まぁそうだな。……解った。そなたとリビアリーをマルケイア王国へ派遣する事を許そう」
「ありがとう存じます、陛下」
レンティーヌもなんとかドラッド伯爵に嘘を吐かずについて良かった、と安堵した。
「リビアリーには」
「構わん。余から伝える」
「畏まりました」
「直ぐにリビアリーからそなたに連絡が行くだろう」
という事で、レンティーヌは父に長らくテーランス家を出る事と、ソウジュに暫く父を頼む事を伝えるために国王の前から下がった。ちなみにソウジュはテーランス公爵の弟を父親に持つ父方の従兄弟で、普段はテーランス領の領主代理を務める父の手助けをしているため、領地でスペア教育を受けている。そんなわけで、レンティーヌは父であるテーランス公爵に報告し、領地のソウジュに手紙を書き送った。
その頃、フレーティア国王は、王城に滞在しているドラッド伯に派遣する魔術師が決まった事を伝えていた。リビアリーの意見を聞いていないが聞かずとも答えは解っているので、後回しで構わないのである。
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