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ドラッド伯には朗報も朗報、とでも言うべき状況だった。フレーティアの国王陛下の使者として、宰相・ルータリアン侯から「レンティーヌ・テーランス嬢が行く」 と聞かされた時には、この上ない喜びと幸運に、年甲斐もなく飛び跳ねそうになった。まぁ心中は飛び跳ねていたのだが。
「レンティーヌ様がいらして下さいますか」
「自らが口にした以上、責任を果たしたい、ということだ。それからリビアリー殿下も共に参る」
「リビアリー殿下?」
ルータリアン侯から告げられた名前にドラッド伯は目を瞬かせた。
「フレーティア国王陛下の第一王子殿下であらせられる」
「という事は、王太子殿下……⁉︎」
ドラッド伯は素っ頓狂な声を上げる。
「いや。王太子殿下は第二王子であらせられるメレクレイ殿下だ。リビアリー殿下は王位継承権を返上されておる」
「さ、左様で」
通常、第一王子と聞けば、王太子だと思うのは、マルケイア王国を含め、何処の国でも第一王子が王太子の座に着くからだ。マルケイアの場合は内乱の関係で第一王子どころかほぼ王族が居ない現状だが。
フレーティア王国でも第一王子が王太子の座に着いてきたはずだったから、てっきり王太子なのだと思っていた。
「リビアリー殿下は、水の魔術師の中ではレンティーヌ嬢よりも上位。二人に任せておけば、貴国の水の復活は間違いない。安心されるが良いだろう」
「はっ。感謝致します」
元々、内乱前のマルケイア王国であっても、フレーティア王国は雲の上の存在だ。足元にも及ばないどころか、足元に平伏しても見向きもしてもらえなくても文句も言えないような国だというのに、内乱が起こった後、復興支援には一番に名乗りをあげてもらい、本当に感謝の言葉をどれだけ口にしても足りない程だ。頭をどれだけ下げても足りないだろう。その上、水の持つ力など、ドラッド伯でも解らない事にも手を差し伸べてくれる。
もう、何も言えず、只管に頭を下げて感謝をした。
「構いません。我が国でも貴国の水を使用した化粧品はご婦人方には大人気で、貴国の内乱はご婦人方も早く終息するよう願う者ばかりでしたから。我が妻もその一人です。貴国の復興が一日でも早く成功するよう願いましょう」
厳しい雰囲気のルータリアン侯なのに、発せられる言葉はとても温かく。ドラッド伯は胸がじんわりと温まるような心持ちがして、早く帰国して一日でも早い復興のために、粉骨砕身働く事を改めて決意した。
また、まだまだ若過ぎて未熟ながらも、段々と国王らしい顔つきを見せて来た若き国王陛下のためにも、是非ともレンティーヌには申し訳ないが、マルケイア国王妃の座に着いて欲しい、と願う。
それがとても、とても難しいと知っても尚。
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