内緒の彼女

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「水族館楽しみだね」  返事がない。 「どうした? 元気ないね」 「……やっぱり水族館行きたくない」 「なんだよ。陸人か……。今日はちひろくんとデートするんだって莉子が言ったんじゃないか。流石にわがまま過ぎるよ。その為に、こっちだって用意したのに」  大人げなくムッとしてしまった俺に、「だって」と彼女は涙ぐむ。 「もう泣くなって。デートが楽しくなくなっちゃうだろ。ベルーガ一緒に見るんだろ」 「ちひろくん怒った。もうキライ。帰りたい」  ぐすぐすと彼女は泣く。 「怒ってないって」  泣きたいのはこっちじゃないか。わがままに振り回されて、踏んだりけったりとはこのことだ。 「分かったわかった。そんなに嫌なら、さっさと陸人のところに行けばいいだろ」  いささか乱暴にUターンして陸人の家のすぐ近くに降ろすと、彼女は「ごめんね、ちひろくん」とだけ言って、走って行ってしまった。  春色のワンピースを揺らしながら。
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