スマホ

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スマホ

「そりゃ、なんだ?」 「スマホだよ。ライン。親と連絡が取れる」 没年昭和50年。30歳でこの世を去ったことになっている俺の祖父、小田清三のことは話に聞いていた。 魚市場で働いていたらしい。幼馴染のばあちゃんと所帯を持って、やがて俺の親父が生まれた。 親父が小学校一年生の時、晩飯の足しにでもと祖父は堤防に釣りに行ってそのままになった。家出した可能性もなくはなかったが、後日海から祖父の釣り竿が発見され、海に落ちたのだろうと決定づけられた。 祖父の遺体は上がらなかった。遺体がないまま葬儀は行われた。 そして、その後、ばあちゃんは女手一つで親父を育てた。 「便利なんだな、今は」 「ああ」 いくらこの男が小田清三の写真に似ているからと言って、おいそれと家に上げるわけにはいかない。新手の泥棒かもしれないし、死んだ者がこうして生き返って出てきたとしたら、それはゾンビ君だ。 俺は、小田清三を外に待たせたまま一度家に入り、スマホを持って来て彼の写真を撮り、職場の両親に各々送って指示を待ったのだ。 「既読になんねえ」 「読んでねえってことか?」 「ああ。仕事中だろうからな。昼飯中ならラッキーだけど」 「ふうん。この麻美っていうのは?」 「おふくろ」 「ああ。俺より歳くってら」 「あのな。お、親父、既読ついた」 俺たちは返信を待った。 来た。 『なんだ?この写真』 『小田清三』 『ふざけてんのか。忙しいんだ』 『ふざけてない。ここにいる』 『どういうことなんだ』 俺と小田清三は顔を見合わせた。 「やり方は大体わかった。俺に打たせてもらえるか?」 「いいよ」 「Z、ってどうやって出すんだ?」 「こうやって、こう」 「わかった」 『ゆたか。ぐれーとろぼZのきよだいにんぎよう、かつてやれなくてごめん』 既読がついた。 返信が来ない。 「誕生日に買ってやるはずだった。かあちゃんには教えてない。反対されるからな。俺たち二人しか知らないはずだ」 返信が来た。 『ランニングにステテコでサンダルなんだな』 『うん』 『なんで濡れてるんだ?』 『海から上がったらしい』 『すぐに家に上げてくれ。風呂と、食事』 『わかった』 『よろしく頼む。なるべく早く帰る』
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