1877人が本棚に入れています
本棚に追加
ピロートークはバスタブの中で
優しく手加減して抱いてもらったおかげか、達した後も意識を失うようなことはなかった。
生まれたままの姿で彼の身体に抱きしめられている今が、少し恥ずかしいけれど嬉しくてたまらない。
脳がふわふわと酩酊して、雲の上を揺蕩うような曖昧なしあわせに包まれている。
「志真。」
大好きな人の声にひどく愛おしそうに名前を呼ばれた途端、その曖昧な幸せがはっきりとした形を帯びて、大きく膨らみすぎて泣きそうになった。
「かなた、さん。」
応えようと紡いだ彼の名前は、涙を堪えたせいか少し舌足らずになってしまう。
言いながらぼうっと彼の顔を見上げれば、やさしい眼差しが俺を映して伏目がちに淡く微笑んだ。
「愛してるよ。頑張ってくれてありがとう、志真。」
キャラメルみたいな声で言う。
続けて頭を撫でられたから離れ難くなって、広い背中に腕を回してしがみつくようにぎゅっと力を込めた。
「俺も、かなたさんが、いちばん、すき。」
言葉にしたらくすぐったくてたまらない。
恥ずかしくて心臓がうるさくなったから、顔の赤さを悟られたくなくて彼の胸に顔を埋める。
すると、大きな手が頭を撫でて、それから額に触れるだけの口付けが降ってきた。
「それは嬉しいな。志真の口から聞くと、何度でも嬉しい。」
「これからは、たくさん、いいます。」
「じゃあ僕はその倍言うね。好きだよ、志真。」
「じゃあ、俺は…… 」
それよりもっと、と言おうとしたけれど、そんな権利はないように思えて口をつぐんだ。
俺は、こんなにも愛してくれた人を信じきることができなかった。
ただ過去の自分の行いが悲しくて、まるで言葉が続かない。
最初のコメントを投稿しよう!